以下は、共同通信(2021年05月14日)からの引用です。
「日本学生支援機構の奨学金制度で保証人などになった北海道の男女2人が、機構側から半額の支払い義務しかないことを伝えられず全額を求められたとして、過払い分の返還と慰謝料を求めた訴訟の判決で、札幌地裁(高木勝己(たかぎ・かつみ)裁判長)は13日、機構の「不当利得」を認めて計約140万円の返還を命じた。
保証人が機構に過払い分返還を求めた訴訟の判決は初。
慰謝料の請求は退けた。
原告は保証人だった元高校教諭の男性(75)と保証人の遺族の主婦(68)。
判決などによると、連帯保証人を含む人数で割った分しか返済義務がないという民法上の「分別の利益」が適用されることにより、原告らには半額しか肩代わりする義務がなかったが、機構の請求などを受け負担分以上の金額計約300万円を支払った。
原告らにはそれぞれ1人ずつ連帯保証人がいた。
機構は訴訟で、自ら適用を主張しなければ分別の利益は受けられないと訴えたが、判決理由で高木裁判長は主張は必要ないとして退けた。
負担分を超える弁済は無効と判断し、返還を命じた。
原告弁護団は札幌市内で記者会見し「判決を踏まえ、機構は保証人に請求する際、半分以上を払う義務がないことを明示すべきだ」と話した。
弁護団によると、2010〜17年度に機構が保証人に全額を請求したのは825件で、請求総額は約13億円に上る。
うち分別の利益の申し立てを受け応じたのは31件だった。
機構は判決後、「判決内容を精査し、適切に対応する」とコメントを出した。」
今はどうなっているのかわかりませんが、少なくとも、当時は、分別の利益を有しない連帯保証人(本人の親とかでしょうね)と、分別の利益を有する単なる保証人(本件のような第三者でしょうね)を意識的に使い分けていた訳ですから、結論的には、この判決の判断が、常識的ではないかと思います。
ただ、一般的に、保証人の分別の利益は、消滅時効などと同様、抗弁事由と言って、保証人側の主張を要するものとされているように思いますが、消滅時効の場合は、債務者側の援用を待って効果を生じるものとされているため、例えば、消滅時効を援用する前に、債務を全額弁済してしまうと、弁済によって、消滅時効を援用すべき債務はなくなってしまうので、その後に消滅時効を援用しようがないのに対して、分別の利益の場合は、単なる訴訟上の攻撃防御方法に過ぎないので、全額弁済後でも可能ということなのですかね。
消滅時効によって債務を免れるにしても、取得時効によって所有権等を取得するにしても、それを潔しとしない人に対してまで、勝手に効果を生じさせるのは何ですし、民法145条は、「時効は、当事者…が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」と、「援用しなければ」と明記しているのに対して、保証人の分別の利益については、同法456条が、「数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第427条の規定を適用する。」と定め、同法427条は「数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。」と定めているだけで、特に「援用しなければ」という文言はありませんので。
でもって、弁済=債務承認後の消滅時効の援用は、信義則に反し許されないとされるのに対して、元々、分別の利益によって、支払義務がない部分を支払ったのだから、その返還請求は何ら問題がないと。
いずれにしても、最高裁まで行くのだと思いますが、さて、どうなるのでしょうか。