以下は、毎日新聞(2017年10月30日)からの引用です。
「交通事故の被害者対策の財源として国の特別会計に計上されていた自動車損害賠償責任(自賠責)保険の運用益約1兆1200億円が、「国の財政難」を理由に20年以上前に一般会計に繰り入れられ、今も約6100億円が特別会計に戻されていない。
このまま「返済」が滞れば、特別会計に残った財源も十数年で底を突く恐れがあり、被害者らは団体を結成し、返済を求めることを決めた。
交通事故の被害者救済がピンチに
危機感を持つ交通事故の被害者家族や有識者らが先月結成したのは「自動車損害賠償保障制度を考える会」(座長=福田弥夫(やすお)・日本大危機管理学部長)。
特別会計を所管する国土交通省(旧運輸省)は過去4回、財務省(旧大蔵省)との間で「返済期限」を定める大臣名の覚書を交わしたが、守られずに延長が繰り返された。
4度目の期限は2018年度で、事実上の返済期限となる18年度予算編成が行われる今年末に向け、財務省などに返済を要請する。
この問題の発端は1994年度にさかのぼる。
旧大蔵省が財政の逼迫(ひっぱく)から旧運輸省の特別会計に着目し、94、95年度、損保会社が集めた保険料の6割を国が預かって運用する「政府再保険制度」の運用益計約1兆1200億円を一般会計に繰り入れた。
最初の覚書では00年度までに全額戻す約束だったが、03年度までに計約6400億円(元本分)が戻された以後は1円も返済されていない。
その結果、元本と利子計約6100億円が戻されない異常事態が続いている。
02年3月に政府再保険制度が廃止され、運用益約2兆円の20分の11(約1兆1000億円)が保険料の値下げに、20分の9(約8700億円=一般会計に繰り入れられた元利残高分を含む)は被害者対策のための新たな基金に充てられた。
基金は国交省が管理し、約8700億円の運用で得た利息収入を、独立行政法人・自動車事故対策機構が運営する最重度の交通事故後遺障害者を治療する専門病院など被害者対策に充てる仕組みだった。
だが、一般会計からの未返済などで実際に使える基金は約2600億円。
その上、予想外の低金利も重なって基金を毎年取り崩しており、17年度末で1786億円まで減る見込みだ。
被害者対策には毎年130億円程度が必要なため、基金は十数年で底を突く可能性が高まっている。
財務省の担当者は「一般会計の財政事情や特別会計の収支状況に照らし、国交省と協議して判断したい」と述べるにとどめている。
当事者ら「返済」求め
「車社会のセーフティーネットとして世界に誇るべき被害者救済事業の継続が危ぶまれる」。
東京都内で先月あった「自動車損害賠償保障制度を考える会」の発足会合。
福田座長ら出席者からは、自賠責保険の運用益約6100億円の「返済」を求める声が相次いだ。
同会によると、救命医療の進歩で交通事故死者は減ったが、重度後遺障害者は毎年1800人程度が生まれる状況にあり、「被害者の回復のため一層の施策の充実が期待されている」という。
会合後の記者会見で、「全国遷延(せんえん)性意識障害者・家族の会」の桑山雄次代表(61)は「運用益で運営される(全国8カ所の)交通事故専門病院は、入院した最重度の患者の26%が意識を取り戻すなど成果を上げている」と評価。
その上で「現状で十分だとは思っていない。被害者や家族の復活への希望をつなぐため、運用益が専門病院の拡充や再生医療などの施策に使われるべきだ」と訴えた。
自動車メーカー労組などでつくる自動車総連の相原康伸会長(当時、現・連合事務局長)は「運用益が塩漬けされ、自動車ユーザーの保険料が適切に運用されていないのは問題。制度の持続可能性を毀損(きそん)している」と批判。
日本自動車連盟(JAF)の矢代隆義会長(元警視総監)も「運用益が他に流用されるのは許されない。(大臣間の覚書が)空手形になるのではと心配している」と財務省をけん制した。
【ことば】政府再保険制度
1955年の自動車損害賠償責任(自賠責)保険制度の制定時、経営基盤が弱い損害保険会社が保険金を払えない事態を想定して導入された。
政府が保険金の支払いが適正かをチェックするとともに、損保会社から預かった保険料の運用益を最重度の後遺症を負った事故被害者を受け入れる専門病院の運営費などに充てていた。
「規制緩和に逆行する」との損保業界などの批判で廃止された。」
最近、後遺障害の認定が厳しいように感じますが、全然関係ないですよね。
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