以下は、毎日新聞(2017年5月18日)からの引用です。
「盗まれた「金」は戻るのか−−。
独立行政法人造幣局東京支局(現在は移転し、さいたま支局に改称)の職員が勤務先から盗み出して質入れした金塊や金貨(時価計約7450万円)について、同局が二つの質店を相手に返還を求めて提訴していたことが分かった。
民法は窃盗罪や遺失物横領罪について被害から2年以内なら元の所有者が取り戻せる「回復請求権」を認めているが、質店側は「職員の行為は業務上横領罪などに当たり請求権は存在しない」などと返還を拒んでいる。
同局によると、回復請求権に基づく返還請求訴訟の提起は初めてという。
同支局総務課専門官だった50代の元職員の男(懲戒免職)は2014〜16年、勤務先から金塊などを盗んだとして、さいたま地裁は今年4月、窃盗罪で懲役5年の判決を言い渡した(確定)。
男は「外国為替証拠金取引の損失を穴埋めするためにやった」と起訴内容を認めていた。
男は東京都と埼玉県の二つの質店で、盗んだ金塊や金貨を換金。
同局は盗まれてから2年以内に順次両店に返還を求めたが、拒否されたため、それぞれ東京地裁とさいたま地裁に提訴した。
両地裁で3〜4月に開かれた口頭弁論で、質店側は「元職員は(金塊や金貨などを)展示品として貸し出す業務の担当者として被害品を持ち出したり、業務の一環として部下をだまして持ち出させたりしており、業務上横領罪や詐欺罪に当たる」などと主張。
刑事裁判で認定された窃盗罪には当たらないとして「回復請求権の成立」を否定し、請求棄却を求めている。
元検事で民法の回復請求権にも詳しい國田武二郎弁護士は「裁判では刑事と民事で判断が分かれることはある。金塊や金貨の購入額が大きく、質店側は返還による丸損を避けたいはずだ。夜中に忍び込んで持ち出した場合などは盗難品と言いやすいが、今回の民事裁判では元職員の職務権限や、虚偽説明で持ち出した経緯などが判断のポイントになるだろう」と指摘する。
二つの質店の代理人弁護士は取材に「言うべきことは法廷で主張していく」と話し、造幣局は「コメントは差し控え、今後の推移を見守りたい」としている。」
私は、元検事でも、民法の回復請求権に詳しい弁護士でもありませんので、関連条文を調べてみました。
民法192条は、「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」と定めています。
いわゆる即時取得(善意取得)と言われるもので、動産の占有者は所有者であろうという外観を信頼して取引した者を保護し、動産の取引の安全を図るためのものです。
一方、同法193条は、「前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。」と定めています。
自らの意思とは全く関係なく占有を離れた場合には、占有という外観を信じた者よりも、真の所有者の権利を保護するということです。
同法194条が、「占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。」と定めていることから、そうではない場合には、無償で回復請求することができるものとされています。
ちなみに、質屋営業法22条は、「質屋が質物又は流質物として所持する物品が、盗品又は遺失物であった場合においては、その質屋が当該物品を同種の物を取り扱う営業者から善意で質に取った場合においても、被害者又は遺失主は、質屋に対し、これを無償で回復することを求めることができる。但し、盗難又は遺失のときから1年を経過した後においては、この限りでない。」と定めています。
我々の司法試験の時代の短答式の過去問とかに、あったような気がしてきました。
このブログの筆者のホームページはこちら