以下は、朝日新聞デジタル(2016年1月25日)からの引用です。
「成年後見人らが財産を着服する事例が多発する中、後見人を選び、監督する家庭裁判所の責任を問う国家賠償請求訴訟が相次いで起こされている。法務省によると、2014年以降、少なくとも6件提訴されて係争中。家裁の過失を認める判決も、未成年後見人の事例を含め、すでに2件出ている。
■弁護士や親族を選任・監督 相次ぐ被害
宮崎地裁は14年、家裁の過失を認定し、国に約2500万円の賠償を命じた。訴えていたのは、交通事故で母親を失った被後見人の少女と、その父親。少女に支払われた保険金約6千万円を、家裁が未成年後見人に選任した祖母が横領したとして、祖母や国を提訴。宮崎地裁は、家裁に保険金の支払い状況や額を把握しない過失があったと認定した。国が控訴し、福岡高裁宮崎支部で和解した。
広島高裁は12年、国に231万円の賠償を命じた。交通事故で障害を負った男性が国を訴えた。高裁は、家裁支部の調査官が後見人のめいと面談し、使途不明金があると知ったのに、解任までの約7カ月間に新たな被害を防ぐ手段を取らなかったと判断した。
東京地裁では、後見人と家裁の責任を問い、賠償を求める訴訟が係争中だ。訴状によると、原告の高齢女性2人は、後見人だった元弁護士の渡部直樹被告(48)=業務上横領罪で公判中=に現金計約9千万円を横領されたとしている。
原告の一人は「2回も解任申し立てをしたのに、家裁が放置した」と指摘。渡部被告と国に弁済分を除く計約7800万円の賠償を求めている。一方、渡部被告と国は請求棄却を求めている。
家裁は年に1回、後見人に財産目録などの報告を求め、管理状況を確認している。家裁の責任を認める判決が出ていることについて、最高裁は「個別の判決内容についてコメントは差し控える。各家裁は後見人の不正行為を防止するために取り組んでおり、最高裁としても円滑に進むよう支援したい」としている。
後見制度に詳しい松村真理子弁護士(第一東京弁護士会)は「賠償を命じる分かれ目となったのは、後見人が財産をすでに横領しているか、これから横領することを容易に認識できたのに家裁が被害防止を図ったかどうか。家裁は予算やマンパワーをこれまで以上に投入して不祥事を防止すべきだ」と話す。
■消えた4000万円 「不審点伝えたのに……」
なぜ被害を食い止められなかったのか――。成年後見人だった弁護士に財産を横領されたとして、母親(96)が国などを相手に訴訟を起こした女性(71)は、家裁の対応に不信感をあらわにする。一方、不正が相次ぐ中、家裁や弁護士会は再発防止策を模索する。
「あれだけ言ったのに揚げ句の果てがこれですか!」。母親(96)が渡部被告と国を訴えている東海地方の女性(71)は一昨年の秋、電話口に向かって東京家裁の職員に怒鳴り声を上げた。
女性が渡部被告と初めて会ったのは、11年6月。母親は認知症が進んでおり、東京家裁が渡部被告を後見人として選んでいた。「明るめの茶髪で、こんな弁護士もいるんだと思った」
母親は都内の老人ホームに入っており、入所費用は月30万円。3年ごとの更新に700万円かかるため、母親の自宅を約5千万円で売って費用を工面した。
女性は渡部被告に不審を抱いたことが何度もあった。母親の口座の取引履歴を確認したい、と求めても返事がない。資産についての報告は1回だけで、通帳のコピーではなく、銀行名と残高を記した1枚の紙だけが送られてきた。老人ホームの入所費用は滞納……。家裁にはこうした状況を何度も伝え、事態を改善するよう求めた。だが、家裁の職員は「本人に伝えておきます」と言うだけだった、と女性は言う。
渡部被告は一昨年10月、警察に自首。女性の母親の財産から約3年間で4千万円超を着服したとして、昨年7月に逮捕された。キャバクラでの遊興費などに使い込んだとされる。昨年10月の初公判では起訴内容を認めた。女性に謝罪の言葉は届いていない。
心配をかけたくないので、母親には事件のことを言えないでいる。17年1月には入所の更新料金の支払期限が来る。財産がなくなった今、施設の料金を払える見込みはなく、退去を迫られるかもしれない。女性は「家裁は、後見人が弁護士だというだけで過度な信頼を置いていたように見えた。訴えに耳を傾けてほしかった」と話す。
■家裁も対策強化 銀行信託活用、弁護人に監督人
最高裁によると、後見人による横領などの被害額は増加傾向にあり、11年は約33億4千万円だったが、14年は過去最多の約56億7千万円。集計を始めた10年6月以降の総額は196億円に上る。
最高裁は「家裁が後見の状況を改めて確認し、集中的に監督した影響だろう。制度の利用者数が増え続けた分、不正が増加した可能性もある」と分析する。
家裁は対策に力を入れている。その一つが、必要なお金以外はあらかじめ信託銀行に預ける「後見制度支援信託」だ。後見人が扱えるお金を限定することで高額な被害を未然に防ぐ狙いがある。制度が始まった12年は98人の利用だったが、14年は2754人に増えた。後見人をチェックする「後見監督人」を付ける動きも広がる。東京家裁では、高額な資産を管理する場合など、後見人が弁護士でも監督人を付けることもある。
14年に発覚した被害のうち、弁護士ら専門職による不正が1割を占めた。日本弁護士連合会は、研修を受けた弁護士を家裁に推薦するよう全国の弁護士会に要請しているほか、横領の被害に遭った人への給付金を支払う制度についても検討を始めている。
成年後見制度
認知症や知的障害などで判断力が十分ではない人のために、親族らの申し立てで、家裁が選んだ後見人が財産管理や介護・医療に関する契約などを担う。最高裁によると、制度が始まった2000年度の申立件数は9007件だったが、14年は3万4373件。後見人の35%は親族で、残りは弁護士ら第三者。」
家庭裁判所というか最高裁判所というか政府は、予算やマンパワーをこれまで以上に投入することなく、自らの責任を問われないようにするために、後見監督人を選任する方向に進むのだと思います。
しかしながら、後見監督人は、勿論、無償ではありませんので、ご本人の経済的負担が、ますます増えてしまいます↓
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/130131seinenkoukennintounohoshugakunomeyasu.pdf#search='%E5%BE%8C%E8%A6%8B%E7%9B%A3%E7%9D%A3%E4%BA%BA+%E5%A0%B1%E9%85%AC'
僅かな報酬で、過大な責任を負わされる後見監督人も、たまったものではありません。
横領した後見人は故意によるものなので、職業責任賠償保険の対象にはなり得ませんが、それを見逃した成年後見監督人は過失によるものなので、職業責任賠償保険の対象となるでしょうから、弁護士などの専門家を成年後見人に選任することは、ご本人の保護には、資するのかも知れません。
しかしながら、業務停止処分になれば勿論、戒告処分であっても、命取りになりかねません。
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