2015年11月05日

グーグル検索、削除命令 不正診療、歯科医の逮捕歴 東京地裁仮処分


以下は、朝日新聞デジタル(2015年11月2日)からの引用です。

「グーグルの検索により、不正な診療行為での逮捕歴がわかるとして、現役歯科医が検索結果の削除を求めた仮処分申請に対し、東京地裁が表示を消すようグーグルに命じる仮処分決定を出していたことがわかった。「歯科診療での不正」という社会の関心が高い情報であっても、一定期間が過ぎれば検索結果から消すべきだとの判断を示した。

歯科医の診療上の犯罪は、診療を受けようとする人にとって関心事のひとつだ。こうした「職業にかかわる犯罪歴」の表示を消すよう命じた司法判断が明らかになるのは初めて。

関係者によると、歯科医は5年以上前、資格のない者に一部の診療行為をさせた疑いで逮捕され、罰金を命じられた。その後、グーグルで名前などを打ち込むと、逮捕を報じるニュース記事を転載したサイトが検索結果に表れた。逮捕歴の表示は更生を妨げ、人格権を侵害すると訴えている。

東京地裁が歯科医の主張を認める仮処分決定を出したのは今年5月。地裁は認めた詳しい理由を記していない。仮処分は暫定的な救済措置であるため、歯科医はグーグルを相手に同じ内容の訴訟も起こし、近く第1回口頭弁論が開かれる。

グーグルは取材に対し、「市民は自身の治療に携わる医療従事者の職務に関連する情報を知る権利があると考えています」とコメントし、訴訟でも争う姿勢を示した。一方、歯科医の代理人弁護士は「取材には応じられない」としている。

■「知る権利」か、立ち直りか

検索結果を消すべきかどうかの判断は、検索サービスを使う人たちの「知る権利」と、法を犯した人の更生のどちらが優先されるかで変わってくる。

これまでの多くの司法判断では、問題のある情報を消すべきなのはブログや掲示板など元々の情報発信者だとされてきた。検索サービスは、ネット上の情報を機械的に仕分け、各サイトに行き着くのを手伝うだけだ、との考え方があった。

例えば、盗撮で逮捕された男性が検索結果を消すようヤフーに求めた訴訟で、京都地裁は昨年8月、ヤフーが自ら逮捕事実を表示させたわけではないとして削除を認めなかった。

しかし、検索結果でも消すべき場合があることを認める仮処分決定がこのところ、相次いでいる。

東京地裁は昨年10月、過去に反社会的集団に所属していた事実を消すよう命じる決定を出した。検索結果の表示も「人格権を侵害する」との判断を示した。

犯罪歴を消すよう命じる仮処分決定も出ている。さいたま地裁は、女子高生にわいせつな行為をして逮捕された過去を表示する検索結果が、その男性の立ち直りを妨げると判断。「逮捕歴を公表されないことが、社会の一員として復帰して平穏な生活を送り続けるために重要だ」と指摘した。

ニュース記事を転載する掲示板などは無数にあるため、ネットから犯罪歴を隠すには、以前なら情報発信者を一つずつ割り出して削除請求しなければならなかった。検索結果を消せるようになれば、一般の人が犯罪歴の載ったサイトにたどり着きにくくするのがより簡単にできる。

一方で、非公開が原則の仮処分決定が増えることへの懸念もある。検索事業者が訴訟で争わなければ、検索結果は誰も気づかないうちに消えてしまい、利用者には削除が妥当かどうかを確かめるすべもない。

どんな場合に削除が求められるのか、その基準もはっきりしない。脱税で有罪判決を受けた会社社長が検索結果の削除を求めた仮処分申請では、今年10月、公益性があるとして退けられている。

■<考論>安易に消すべきでない

宍戸常寿・東京大教授(憲法学)

検索結果もプライバシーを侵害し得るとの認識は広まってきたが、個々の裁判官が基準がないまま判断しているのが実情だ。自由な情報流通は「知る権利」にこたえるもので、安易に消すべきではない。公共性の高い仕事にかかわる犯罪なら、削除はより慎重であるべきだ。

■<考論>一定期間後削除認めよ

プライバシー保護に詳しい森亮二弁護士

仕事上の犯罪歴への市民の関心は高いが、ずっと残す必要があるわけでもない。一定期間が過ぎれば、その人の更生の観点から削除は認めるべきだ。ただ、長く表示された情報を仮処分で急いで消す理由もない。裁判で議論を尽くしたうえで、判断されるのが望ましい。

■検索結果の削除を求めた仮処分申請に対する地裁の判断例

◇地裁の判断時期
 検索結果の内容
 地裁の決定

◇2008年11月
 医師が約1年前に女性宅への住居侵入で逮捕
 削除しない

◇14年10月
 一般男性がかつて反社会的集団に所属した過去
 削除

◇15年5月
 歯科医が5年以上前に診療行為を資格のないものにやらせたとして逮捕
 削除

◇15年6月
 男性会社員が約4年前に児童買春したとして逮捕
 削除

◇15年10月
 会社経営者が脱税で有罪判決を受けた過去
 削除しない」




最高裁が一定の判断基準を示すまでは、個々の裁判官の価値観で、削除が認められたり、認められなかったりという事態が、続くことになるのでしょうね。

しかも、最高裁としては、当事者が上告や上告受理の申立てをしてくれない限り、判断のしようがありません。

ちなみに、上告受理の申立てに対しては、上告不受理という判断もありますが、これは、原審の判断を維持したということではありません。

事例の集積を待って判断しようということなのか、全く正反対の結論の高裁の判決を、いずれも上告不受理ということも、ままあります。

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posted by 森越 壮史郎 at 12:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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