以下は、朝日新聞デジタル(2015年10月23日)からの引用です。
「■検察側は異議申し立て
大阪市東住吉区で1995年、小学6年の女児が死亡した住宅火災をめぐり、大阪高裁(米山正明裁判長)は23日、殺人罪などで無期懲役とされ服役中の母親・青木恵子元被告(51)と内縁の夫・朴龍晧(たつひろ)元被告(49)の裁判をやり直すと決めた大阪地裁の再審開始決定を支持し、検察側の即時抗告を棄却した。放火ではなく、車のガソリン漏れによる自然発火の可能性がより高まったと判断した。
高裁は「無罪を言い渡すべき蓋然(がいぜん)性がより高くなった」と刑の執行停止も認め、26日午後2時以降に指定。しかし、検察側はただちに高裁に異議を申し立てた。高裁決定が確定すれば、2人は逮捕から20年ぶりに和歌山、大分の各刑務所から釈放される。
2006年に確定した判決は、2人は生命保険金1500万円を得ようと長女(当時11)の殺害を計画したと認定。朴元被告が自宅車庫にガソリンをまいて火をつけ、居間にいた青木元被告と当時8歳の長男とともに避難し、入浴中の長女を焼死させたと判断した。
■「自然発火の可能性」
だが、大阪地裁の12年の再審開始決定は、車庫の車から漏れたガソリンが気化して風呂の種火に引火し、数秒で炎に包まれたとする弁護側の再現実験を重視。朴元被告が捜査段階に「放火後に家に入って家族に知らせ、車庫の炎を跳び越えて逃げた」と述べた方法では無傷で脱出できないとし、「車庫の車から何らかの原因でガソリンが漏れ、自然発火した可能性も否定できない」と判断した。
高裁決定も朴元被告の「自白」の信用性を認めず、今回新たに示された実験結果や証言を重視。同じメーカーの車4台で給油口からのガソリン漏れが確認され、火災現場の車の給油キャップも密閉されていなかったとみる技術者の証言から、大量のガソリンが漏れた可能性は否定できないと指摘。自然発火の具体性が明らかになったとし、「放火しかあり得ない」という検察側主張を退けた。
さらに、釈放の判断について「拘束が20年に及ぶことに照らすと、刑の執行を今後も続けることは正義に反する」と結論づけた。
大阪高検の榊原一夫次席検事は「即時抗告が認められなかったことは誠に遺憾。決定内容を十分検討し、適切に対処したい」とコメントした。
■大阪高裁の決定骨子
・女児が死亡した火災は、住宅車庫の車からガソリンが漏れ、風呂釜の種火に引火して自然発火した可能性が具体的に認められる
・再現実験の結果、捜査段階で元被告が供述したとされるような方法では無傷で逃げられるか疑問で、実現可能性が乏しい
・今回の審理で無罪の可能性がより高まり、身柄拘束が20年に及んでいることを考慮すると刑の執行を今後も続けるのは正義に反する
〈東住吉死亡火災再審〉
大阪市東住吉区の住宅で1995年7月22日夕、入浴中の青木めぐみさん(当時11)が火災で焼死。大阪府警は保険金目的の放火殺人事件とみて、母親の青木元被告、朴元被告を殺人と現住建造物等放火、詐欺未遂の疑いで逮捕した。ともに捜査段階で容疑を認め、公判で無罪を主張。99年に無期懲役の判決を受け、2006年に最高裁で確定。09年に再審請求し、大阪地裁は12年に自然発火の可能性を認めて再審開始を決めた。」
続いて、以下は、毎日新聞(2015年10月23日)からの引用です。
追い詰められ…自白、20年信じた「無実」 再審維持
「放火して長女(当時11)を殺害したとされた母と内縁の夫の再審請求に対し、大阪高裁は23日、その訴えを認める決定を出した。同じ結論を導いた地裁からさらに踏み込んだ判断を示したが、検察側は争う構えを崩さない。逮捕・起訴から20年。2人の「無実」を信じ、帰りを待つ家族らの間には、喜びといらだちが交錯した。
20年前の放火殺人、再審支持 大阪高裁、釈放も認める
「長かったですが、信じていたので、うれしかったです」。1995年9月に逮捕された青木恵子元被告(51)=和歌山刑務所で服役中=の長男は大阪市内で開いた記者会見で、29歳になる前日に出た高裁決定をうれしそうに受け止めた。
青木元被告は決定を受けて面会した弁護士に喜びの表情を見せた一方、刑の執行停止が「26日午後2時から」とされたことには残念そうなそぶりだったとされる。釈放が長男の誕生日に間に合わなかったためとみられ、弁護士に「一緒に誕生パーティーできなくてごめんね、と伝えてほしい」と求めていた。
青木元被告が逮捕された時、長男は8歳。優しかったという母親が三つ年上の姉にあたる長女(当時11)を殺害した疑いで警察に向かう姿をわけも分からず見送った。それ以来、青木元被告とのやり取りは手紙や面会だけで、寂しく、つらい日々を重ねた。
長男は「事件のことはあまり考えないように」と意識しつつ、無実を信じ続けた。そうした歳月について「僕が信じないと、お母さんもつらいでしょう」と振り返る。釈放されたら何と声をかけるか、と会見で聞かれると、「おかえり、ですかね」。一緒に姉の墓参りに行き、「やっとお母さんと来られたよ」と報告するつもりだ。
青木元被告と内縁の夫の朴龍晧(たつひろ)元被告(49)=大分刑務所で服役中=の無実を信じ、刑の執行停止によって釈放される時を待つ長男ら家族や支援者の思い。2人の心境についても弁護団は「20年という長期、2人は一日千秋の思いで待っていた」と明かす。しかし、検察側は高裁に異議を申し立て、再審開始を認めた決定についても争う構えを崩していない。
検察側は今後の具体的な方針を明らかにしていないが、検察幹部は「全くの想定外ではない」と指摘。期限の28日までに特別抗告の理由となる憲法違反や判例違反にあたるかを慎重に検討するとしている。
検察が刑の執行停止に対して異議を申し立てたことを会見後に知った乗井(のりい)弥生弁護士は「無罪になる可能性が高い人をさらに拘束する正義に反する行為。非常に残念だ」と批判した。
日本弁護士連合会の村越進会長は「高裁は事故の可能性を具体的に指摘し、自白の信用性を否定し、自白を採る過程の問題点まで指摘した。検察官には決定を尊重し、速やかに再審公判に移行させるよう求める」との声明を出した。
■「帰られへんぞ」失意で自白
「当分帰られへんぞ」
朴元被告は一審の公判段階で、大阪府警の捜査員から任意同行後にそんな言葉を告げられたと訴えた。
任意の取り調べでは「車からガソリンを抜いてまき、火をつけたとの鑑定がある」「火を付けたのを(青木元被告の)長男が見たと言っている」と事実と異なる説明をされ、焼死した長女の写真を見せられて「悪いと思わんのか」と迫られたという。
さらに、任意段階では否認だった青木元被告について「もう全部しゃべってんぞ」と伝えられて気力を失い、小声で「やりました」と自白。そして逮捕後、「車庫にガソリン7・3リットルをまいてライターで火を付けた」とする供述調書に署名をしたという。
23日の高裁決定も、自白の内容には犯人しか知り得ない「秘密の暴露」がなく、取調官の誘導や押し付けがあった可能性も否定できないと指摘した。
検察側は高裁の審理で「朴元被告の記憶を度外視して警察が供述させたとは考えられない」とし、自白には信用性があると主張していた。決定後、捜査関係者は「高裁の指摘内容をしっかり検討する必要がある」と話した。
■「『事故』とみる姿勢欠いた」
《元検事の落合洋司弁護士(東京弁護士会)の話》
ガソリンを大量にまく危険な方法で自宅を燃やし、保険金を得るような筋立てが現実的でないことは捜査段階で気づけたはずだ。科学的知識や健全な感覚だけでなく、「事故」の観点で捜査する姿勢が警察・検察とも欠けていた。検察は警察から一定の距離を置き、自白がなくても起訴できる証拠があるか厳しくチェックしなければ存在意義がない。
■「無実の訴え、検討したのか」
《水谷規男・大阪大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話》
弁護側は新たな実験や証言の積み上げで自然発火の可能性を具体的に示したが、刑事裁判で立証責任を負うのは検察側であり、本来は検察がもっと早い段階ですべき作業だった。自白に頼って科学的な検証を怠った捜査は問題だが、自然発火説は当初の公判段階でも争点だった。裁判所も当時、無実の訴えを十分検討したかが改めて問われる。
■再審8件、すべて無罪
最高裁のまとめによると、死刑か無期懲役の判決が確定した戦後の事件で再審が始まったのは8件。すべて無罪が確定している。
再審を始めるべきか検討する際にも、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が適用される。最高裁は1975年、そんな原則を示した。これをきっかけに再審の重い扉が開くケースが増え、86年までに財田川(さいたがわ)事件、免田(めんだ)事件、松山事件、島田事件と死刑確定事件で次々と再審開始が決まった。
その後、90年代前半から重大事件の再審決定は久しく途絶えた。2000年代に入ると、布川(ふかわ)事件や服役・出所後に強姦(ごうかん)事件の真犯人が現れた氷見(ひみ)事件などが続き、DNA型鑑定が決め手となった足利事件や東京電力女性社員殺害事件と、科学技術の進歩を反映した再審判断が目立つようになっている。
■再審無罪となった主な事件
《免田事件》
1948年に熊本県で起きた強盗殺人事件。死刑判決確定後、83年に再審無罪
《財田川事件》
50年に香川県で起きた強盗殺人事件。死刑判決確定後、84年に再審無罪
《松山事件》
55年に宮城県で起きた強盗殺人放火事件。死刑判決確定後、84年に再審無罪
《梅田事件》
50年に北海道で起きた強盗殺人事件。無期懲役判決確定後、86年に再審無罪
《島田事件》
54年に静岡県で起きた幼女誘拐殺人事件。死刑判決確定後、89年に再審無罪
《足利事件》
90年に栃木県で起きた女児殺害事件。無期懲役判決確定後、2010年に再審無罪
《布川事件》
67年に茨城県で起きた強盗殺人事件。無期懲役判決確定後、11年に再審無罪
《東京電力女性社員殺害事件》
97年に東京都で起きた殺人事件。無期懲役判決確定後、12年に再審無罪」
更に、以下は、産経WEST(2015年10月26日)からの引用です。
東住吉女児焼死再審 朴さん釈放で「外国にいるみたい」 再審への道に弁護士も笑顔
「20年ぶりに釈放され感無量です」。大阪の女児死亡火災の再審開始が認められた朴龍晧さん(49)が26日午後2時すぎ、服役先の大分刑務所から約20年ぶりに釈放された。
刑務所では弁護士に連れられた朴さんがスーツにワイシャツ姿で門から出てきた。短く刈った頭を下げ、支援者らに「20年ぶりで外国の地に立っているようで、まだ現実感がない。夢のようで景色が輝いて見える」と語った。
一方26日午前、刑の執行が停止されると仕事先で連絡を受けた朴さんの母親(74)は「やっと帰ってこられる」と安堵と喜びに胸をなで下ろした。
午前10時ごろ、テレビのニュースで決定を知った朴さんの姉(51)が母親に電話で連絡。姉は「朝から気持ちが落ち着かなかった」と話し、「胸のつかえが下りてほっとした」と声を弾ませた。
大阪高裁から連絡を受けた弁護団の斎藤ともよ弁護士は、大阪市内で記者会見し「20年にわたり拘束された2人の主張が認められた。再審の道も開け、心から喜んでいる」と笑顔を見せた。
刑の執行停止時間は26日午後2時。中谷裁判長は「大阪地裁の再審開始決定が高裁でも再確認されたことで、無罪判決が言い渡される可能性が高まった」と指摘した。大阪高検の榊原一夫次席検事は「特に迅速、適切に対応したい」とのコメントを出した。
高裁第4刑事部(米山正明裁判長)は今月23日、再審開始と刑の執行停止を認めた決定で、「無罪の可能性が高く、逮捕以来約20年にわたる身体拘束を続けるのは正義に反する」と判断。検察側が申し立てた異議を第3刑事部で審理していた。検察側は最高裁への特別抗告も検討している。」
更に、以下は、毎日新聞 (2015年10月28日)からの引用です。
<女児焼死>大阪高検が特別抗告を断念…再審開始、確定へ
大阪市東住吉区の小6女児焼死火災で、大阪高検は28日、母親の青木恵子さん(51)、内縁の夫だった朴龍晧(ぼく・たつひろ)さん(49)の裁判のやり直し(再審)を認めた23日の大阪高裁決定に対し、最高裁に特別抗告しないと発表した。殺人罪などで無期懲役とされた2人の再審開始が確定する。有罪を裏付ける新たな証拠はないとみられ、再審で無罪となる公算が大きい。
高検の榊原一夫次席検事は28日、「高裁の決定における事実認定には、直ちに承服しがたい点があるが、(特別抗告の要件である)憲法違反などが存するとまでは言い難い。特別抗告は断念することとした」との談話を発表した。
2人は刑務所で服役していた26日、刑の執行を停止され、逮捕以来約20年ぶりに釈放された。死刑か無期懲役の判決が確定した後、再審が決まった事例は1975年以降、10件となった。過去の9件はすべて再審無罪になっている。
特別抗告の可否について、高検は最高検とも協議。「無罪の蓋然(がいぜん)性がより高まった」と判断した高裁決定は憲法違反や判例違反に当たらないと判断し、特別抗告しないことを決めた。期限を過ぎた29日午前0時に再審開始が決まる。検察側は大阪地裁で開かれる再審公判でも有罪主張を続ける。」
やっていないのに自白するなんてあり得ないと思ったら、大間違いです。
身近なところだと、PC遠隔操作事件では、複数の人が、全く身に覚えがないにもかかわらず、自白に追い込まれましたよね。
そして、重大な犯罪であろうが、軽微な犯罪であろうが、冤罪によって、人生が台無しになることは、同じことです。
例えば、裁判官なら、盗撮だけで罷免ですし、公務員でも、痴漢だけで懲戒免職になりかねません↓
http://morikoshisoshiro.seesaa.net/article/355498808.html
それなのに、昔も今も、「検察が起訴した以上、当然、有罪だろう」という発想の裁判官が、少なくないように思います。
諸外国では、取調べに弁護人が立ち会うことすら認められているのに、取調べの全面可視化くらい、なぜ、認められないのでしょうか↓
http://morikoshisoshiro.seesaa.net/article/380020137.html
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