以下は、産経WEST(2015.7.30)からの引用です。
「5億円近い大金をネコババしたのは、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とするはずの弁護士だった。依頼人からの預かり金など計約4億9千万円を着服、詐取したとして、大阪地検特捜部は業務上横領や詐欺の罪で大阪弁護士会所属の弁護士、久保田昇被告(62)を起訴した。一連の捜査で、交通事故で脳障害を負った10代の少女一家が受け取るはずだった示談金約5400万円まで着服する無慈悲ぶりも判明。柔和な笑顔を浮かべた「弱者の味方」という仮面≠ヘはぎ取られた。横領などの不正が全国的に相次ぐ弁護士。業界はいまだ有効な対策を打ち出せておらず、国民の「不信」は拡大する一方だ。
「事務所移転で書類破棄」
「ひとりでは重い荷物も二人三脚なら軽くすることができる」。事務所のホームページに柔和な笑顔で登場し、依頼を呼びかけていた久保田被告。しかし、実際に手に入れたかったのは、依頼人の苦しみの解決でなく、「カネ」だった。
大阪地検特捜部が今回立件した横領・詐欺事件の被害者は(1)新潟市の建設会社(2)大阪府岸和田市の建設会社(3)大阪市内で幼稚園を運営する学校法人(4)娘の交通事故の示談金請求業務を委任した女性。犯行時期は平成21年春から今春まで、実に6年間にも及んでいた。
不正発覚の発端は、新潟の会社の事件だった。この会社が兵庫県内で施工した病院の建物の欠陥を巡って訴訟を起こされ、代理人を委任されたのが同社の大阪支店の顧問弁護士を務める久保田被告だった。大阪高裁で23年9月に和解が成立したが、訴訟の過程で法務局に支払っていた供託金など約3億5千万円が返還されず、同社は久保田被告を相手取り、25年に大阪地裁に提訴したのだ。
「去年、当事務所へ移転する際に終了した事件につきましてはかなりの書類を破棄、整理しました。今一度探しているところです」。訴訟では久保田被告が会社側代理人の弁護士に宛て、苦しい「弁明」の手紙を送っていたことも明らかになった。
結局、地裁は久保田被告が供託金などを着服したと判断。ほぼ請求全額の返還を命じる判決が26年8月までに確定した。
なりふり構わぬ金策
直後の同年9月、久保田被告は返還命令に応じようとしたのか、なりふり構わぬ金策に走り出す。標的となったのは、大阪市内の幼稚園を運営し、園に隣接する土地の購入を検討していた学校法人だった。
法人から売買契約交渉を委任された久保田被告は、実際は一切交渉しないまま「売買が順調に進んでいる」と説明し、土地購入費名目で計2700万円を詐取したのだ。法人には、売買の相手方弁護士の捺印(なついん)などがあるように見せかけた偽造報告書まで提出していた。
売買契約が進めば、交渉をしていなかった事実が発覚するのは時間の問題だった。あまりにずさんな犯行のように思えるが、捜査関係者は「それだけ切羽詰まっていたということではないか」とみる。
「法のプロ信用」背信
こうした背信行為の中でも、特に目を引くのが交通事故で脳障害を負った少女一家の被害だった。
当時10代だった一家の長女は平成18年1月、自転車で帰宅途中、自宅近くの交差点で出合い頭にトラックと衝突。一時は意識不明の重体となり、脳機能障害が残った。母親が知人の紹介を受け、事故の相手側への示談金請求業務を委任したのが久保田被告だった。
数回にわたり、示談成立前の一時金名目で入金があったが、実は「交渉途中」と説明していた22年春の段階で示談が成立していた。本来の示談金は約9200万円だったが、振り込まれたのは一部に過ぎなかった。被告が着服した総額は約5400万円に上った。
示談成立から3年余り後、久保田被告は「示談が不成立になった」との虚偽の事実を母親に告げた。「最近は自転車側の過失も重視されるようになった。訴訟を起こしても勝ち目はない」と説得。結局、母親は交渉継続を断念した。
障害者向けの作業所に就職した長女は、記憶力の低下や激しい感情の起伏もあり、事故以前の生活に戻ることはできない。「法のプロなら大丈夫、と全面的に信用していた」。母親は憤りを隠さない。
借金返済、キャバクラ豪遊…
捜査関係者によると、久保田被告は少女一家という「弱者」を含む被害者から着服、詐取した5億円近い大金を自らの借金返済や事務所の維持費、生活費などに費やしていたという。ただ、現実には「弱者」を食い物にした弁護士の犯罪は後を絶たない。
25年には、成年後見人を務めていた女性の預金計約4200万円を着服したとして、東京弁護士会の元副会長が業務上横領罪に問われ、懲役5年の実刑判決を受けた。判決によると、この弁護士はバブル期の不動産投資に失敗し、多額の借金返済や事務所経費に充てるため横領を繰り返した。
また、今年7月2日には、成年後見人として管理していた認知症の女性の預金を着服したとして、警視庁が業務上横領容疑で元弁護士を逮捕。無断で口座から現金を引き出したり、不動産を売却したりしてキャバクラなどで使っていたという。
最高裁によると、弁護士や司法書士ら専門職による着服などの不正は、調査を始めた22年6月から26年末までの4年半で、全国で少なくとも62件、約11億2000万円に上った。
判決文偽造の不祥事も
大阪弁護士会をめぐっては、久保田被告の逮捕に続き、別の会員の弁護士も裁判所の判決文や決定書を偽造していた疑いが浮上し、大阪地検が本格捜査に乗り出している。
相次ぐ不祥事に、同弁護士会の山本健司副会長は「大変残念だ。依頼した弁護士に不審を抱いた場合には、弁護士会に相談してほしい」と呼びかける。
久保田被告に示談金を横領された少女一家は、交通事故から9年を経た今春、地検の捜査が入るまで弁護士の不正を疑ったことは一切なかった。もっとも、弁護士の不正を監視すべき立場の弁護士会でも、被告の不正情報はつかめていなかったという。
拡大する一方の「弁護士不信」を解消する有効な手立てはないのか。「『弁護士自治』の原則があり、相当程度の不正を確認できなければ、積極的に介入することはできない」。弁護士会の関係者はこう嘆くのだが…。」
弁護士自治は、戦前、国が弁護士に対する監督権を有していたところ、その結果として、多くの弁護士が政治犯や思想犯として投獄されるなどした歴史の反省から、弁護士が、その使命である人権擁護と社会正義を実現するためには、いかなる権力にも屈することなく、自由独立でなければならないという制度です。
http://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/autonomy.html
ですので、飽くまで、公権力が介入できないというだけのことで、弁護士会が積極的に介入することができない理由には、ならないのではないでしょうか。
むしろ、弁護士に対する指導監督や懲戒が、弁護士会によってのみ行われることからすると、積極的に介入しなければ、ならないのではないでしょうか。
弁護士会の関係者は、本当にこんな話をしているのでしょうか。
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