先日届いた判例時報2216号100頁に、建物賃借人が、賃貸人及び保証会社の従業員らにより、賃料不払いを理由に賃貸物件から強制退去させられたことが違法として求めた損害賠償が認容された事例が掲載されていました。
「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される」と判示した最高裁判所第3小法廷昭和40年12月7日第3小法廷判決↓を引用した上で、賃貸人及び保証会社に対して、連帯して、精神的慰謝料80万円と弁護士費用8万円の合計88万円もの損害賠償金の支払いを命じています。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=53851&hanreiKbn=02
約8か月もの間、居住を妨害されたこと等による精神的苦痛に対する慰謝料とのことですが、判決等に基づき明渡しの強制執行をするために、裁判所に納めなければならない予納金だけでも、最低50万円、弁護士費用その他諸々の費用を加えると、最低でもその位の費用はかかりますので、法的手続によらず、自力救済をした方が安上がりというのでは、自力救済の抑止力にならないから、という配慮も働いているのではないかと思います。
一方で、判決は、賃借人に対して、未払賃料等の支払も命じていますが、賃貸人及び保証会社側から、未払賃料等と、不法行為による損害賠償金とを相殺することは、認められません(民法509条「債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。」)。
不法行為の被害者に現実の弁済による損害の填補を受けさせるため、不法行為の誘発を防止するため、などと言われています。
このブログの筆者のホームページはこちら