以下は、時事ドットコム(2014/01/29)からの引用です。
「仕事中に顔見知りの京都市職員に抱き付かれ、手足のしびれなどの後遺症が残ったとして、男性(55)が市を相手に約8000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、京都地裁(大島真一裁判長)は29日、市に約3000万円の支払いを命じた。
判決によると、京都市は男性の勤務先に廃棄物の運搬業務を委託。
男性は2009年9月、市の事業所で作業中、顔見知りだった市職員の男性(36)に背後から抱き付かれた後、脊髄症を発症した。
手足のしびれなどが残ったため重労働ができなくなり、男性は11年11月に退職した。
大島裁判長は後遺症について、職員の抱き付き行為と事故前から男性にあった脊柱管狭窄(きょうさく)症が「共に原因になって発生した」と判断し、損害額の4割を減額した。」
素因減額と呼ばれており、最高裁平成4年6月25日判決↓は、「被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の規定を類推適用して、被害者の疾患をしんしゃくすることができる。」と判示しています。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=53376&hanreiKbn=02
但し、疾患ではない単なる身体的な特徴は別論で、最高裁平成8年10月29日判決↓は、「不法行為により傷害を被った被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有しており、これが、加害行為と競合して傷害を発生させ、又は損害の拡大に寄与したとしても、右身体的特徴が疾患に当たらないときは、特段の事情がない限り、これを損害賠償の額を定めるに当たりしんしゃくすることはできない。」「交通事故により傷害を被った被害者に首が長くこれに伴う多少の頸椎不安定症があるという身体的特徴があり、これが、交通事故と競合して被害者の頸椎捻挫等の傷害を発生させ、又は損害の拡大に寄与したとしても、これを損害賠償の額を定めるに当たりしんしゃくすることはできない。」と判示しています。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52518&hanreiKbn=02
本件と同じ脊柱管狭窄症についても、「被害者の骨性脊柱管は骨性脊柱管狭窄と評価される程度に至っており、平均的な日本人と比較すると脊髄への圧迫を生じやすく、その程度も高度になりやすい状態であった」としながら、「受傷の重篤さ、事故による外力の大きさにかんがみると仮に骨性脊柱管の直径が平均人と同程度であったとしても頚髄不全麻痺の後遺障害が残存した可能性は大きかった」として、素因減額を否定した下級審判決もあります。
本件の場合、「背後から抱きつかれた」程度の外力ですから、例えば自分で滑って転んだりなど、何かのはずみでも発症する可能性が否定できませんので、可哀想ではありますが、素因減額されるのも、仕方がないのではないかと思います。
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