以下は、長文ですが、朝日新聞デジタル(2014年1月5日)からの引用です。
「証言の誘導や司法取引まがいの交渉、そして証人への圧力――。
朝日新聞が入手した約3時間の録音データには、刑事裁判をゆがめかねない大津地検検事(当時)の証人テストでの発言が記録されていた。
同じような問題点はほかの裁判でも指摘されており、適正な証人テストを求める声が高まっている。
アユ養殖業の男性(46)は2007年6月、父親が遺(のこ)した約35億円のうち約2億円しか申告せず、相続税約15億円を脱税したとして母親や姉とともに逮捕された。
無実を訴えた母と姉は起訴され、容疑を認めた男性は起訴猶予に。
争いのポイントは、養殖業の事業主が父母のどちらなのかだった。
母が事業主だと、そもそも「遺産」にはあたらない。
10日後に証人尋問を控えた男性は、琵琶湖に近い大津地検3階の一室で男性検事(41)と向き合った。
その際、ICレコーダーでやりとりを録音した。
検事「お父さんが亡くなる直前、次の(アユ養殖業の)代表者を決めたのは誰ですか」
男性「母です」
検事「うん? 母ですか」
検事は畳みかける。
検事「もともとお父さんは、お姉さんを次期社長として育てようとしてた」「ところがその後お前(男性)が代表者であれと決めたんですよね」
男性「まぁそう言ってましたね。お父さんは」
検事「だから決めたのはお父さんなんでしょ」
わずか2分強の証人テストのやり取りで、事業主として後継者を指名したのは、母ではなく父に。
地検の描いたストーリー通りの証言を男性は求められた。
男性は証言当日にもテストに呼ばれた。
検事「お父さんが事業主ということになると、お母さんの役割は?」
男性「役割ですか……。まぁ、お父さんの片腕」
検事「ふーん、片腕……」「まぁ、端的に言うと、もう従業員だと」「そういうことにしてよろしいでしょうか」
母の役割は「従業員」にまで格下げされた。
このまま証言すれば、家族の有罪が裏付けられることになる。
検事は、男性に言い聞かせていた。
「お姉さんには『クモの糸』(起訴猶予)をつかむチャンスもあったわけよ」「ただそれをつかまへんかったんよ」
逮捕直後に男性が取り調べの様子を記録した被疑者ノートには、こんな検事の言葉が記されていた。
「この前までは君が引き返せる黄金の橋があったが、今ではただのつり橋程度しか残っていない。どうするのかは君の決断だけだぞ」
男性は結局、証人テスト通りではなく「事業主は母」と証言し、無理やり父とする調書が作られたと訴えた。
しかし判決は調書と異なる証言について、「信用できない」と退け、事業主は父と調書通り認定して母と姉を有罪とした。
判決は確定し、男性は今も悔いる。
「起訴猶予をちらつかされ、当初は容疑を認めた。でも家族を有罪にするため利用されただけだった」
この検事が現在所属する京都地検は取材に、「対応できない」と回答した。
■共犯者裁判めぐり「取引」 調書通り証言なら求刑減、示唆
証人テストに潜む危険性は「誘導」だけではない。
「司法取引」まがいのやり取りがあったと裁判所が認定したケースもある。
06年に起きた大阪府東大阪市の東大阪大生らへの集団暴行・殺人事件。
小林竜司死刑囚(29)は大阪拘置所で、共犯者とされた知人男性(29)の弁護士に「新事実」を明かした。
まだ自分の判決を受けていなかった小林死刑囚は、07年にあった知人男性の公判に出廷して証言することになった。
その際検事から「協力すれば(自分の)求刑を無期懲役に下げる」「調書をよく確認して証言するように」と言われていた、という告白だった。
小林死刑囚は調書を熟読して覚え、実際の証人尋問の際には法廷に調書を隠して持ちこんだ。
検事からは「持っている書類が調書だということはしゃべるな。うまくやれ、と言われた」という。
だが結局、小林死刑囚には同年5月に求刑通り死刑が言い渡された。
検事とのやりとりを弁護士に伝えたのは、その判決直後だった。
「求刑を盾に利益誘導され、検察官の筋書き通りの調書を丸暗記して証言していた」。
弁護士は、違法な証人テストを受けた小林死刑囚の証言は信用できないとして、無罪を主張したが、大阪地裁は同年10月、男性を有罪とした。
ただ判決は、検事が「(小林死刑囚に)判決が無期でもいいと思っている」と発言したと認定。
「協力すれば有利になると示唆するようなもので望ましくない」と批判した。
男性は二審の懲役18年が確定した。
■冤罪生む恐れ、記録残せ
《解説》
大阪地検特捜部による証拠改ざん事件が2010年に発覚したのを機に、捜査・公判をめぐる「検察改革」が進められているが、「証人テスト」は法制審議会で議論の対象にすらならずに見落とされてきた。
刑事手続きの透明化を徹底するうえで、このような「ブラックボックス」を放置すべきではない。
09年5月に裁判員裁判が導入され、「調書主義」から「口頭主義」への転換が図られた。
法廷で語られることに基づいて審理する、との考え方だ。
証言が重要視されるのに伴って、証人テストに力が注がれるようになる。
だが、そこで捜査機関が見立てに沿った誘導や強要を行えば、冤罪(えんざい)を生んでしまうことは歴史が証明している。
否認する容疑者の取り調べ中、「ぶっ殺すぞ」などの暴言が発覚して05年に検事を辞めた市川寛弁護士(48)は現役時代、同僚が証人に調書通りの「Q&A集」を渡すのを見たことがあるという。
「『調書さえとれれば』という考えがあるから私のようなゆがんだ者が出る」と指摘する。
刑事司法の信頼回復のためにも、証人テストのあり方を問い直す必要がある。
検察官と証人とのやりとりについて、検証可能な形で記録が残されるよう、制度を改善すべきだ。
■供述調書の押しつけは論外
笠間治雄・前検事総長
検察にとって証人テストとは、証人が法廷でどの程度話すのか、供述を変えることがあるのかを見極めるためのもので、いわばリトマス試験紙。
出方がわかれば効果的な尋問ができる。
だから虚心坦懐(きょしんたんかい)に全てを聞くべきであって、供述調書を押しつけるのは論外だ。
証人がテストで「本当は違う」と訴えることはざらにあるが、その時は「じゃあどういうこと?」と聞けばいい。
検察に不都合な証言になるとわかれば、反証できる客観証拠を探せばいいだけのこと。
裁判員裁判の時代、なおのこと、そこにこだわるべきだ。
冤罪(えんざい)の根本は捜査にこそあるという認識があり、検察改革では証人テストは議題にしなかった。
ただ、おかしなテストをすれば弁護側の反対尋問で露見する。
求められるべきは検事の尋問技術向上で、新たなチェックの仕組みまでは必要と思わない。(談)
かさま・はるお
東京地検特捜部長などを歴任。
退官直前に大阪地検特捜部の証拠改ざん事件が発覚し、検察改革を託されて検事総長に就いた。
2012年退官、現在は弁護士。
66歳。
■証人テスト、可視化すべきだ
小坂井久・弁護士
証人尋問が「筋書き」を披露する場と化せば、冤罪を招きかねない。
取り調べと証人テストは密室で行われ、検証が難しいという共通の問題を抱える。
だが取り調べの「録音・録画(可視化)」などを議論している法制審議会では、証人テストのやり方までテーマに上がったことはない。
検察側は公正・公平な手続きを踏んでいることを示すためにも、今後証人テストの可視化を検討すべきだ。(談)
こさかい・ひさし
日本弁護士連合会の「取調べの可視化実現本部」副本部長。
証拠改ざん事件などを受けて発足した、法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」幹事も務める。
61歳。
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「証人テスト」の問題に関する意見や情報を、朝日新聞大阪社会部にお寄せください。
ファクス06・6231・3673、メールo−syakai1@asahi.com」
最近、Yahooニュースのトップで取り上げられる記事が激減したので、この記事は、裁判所に行ったついでに寄った弁護士控室で知りましたが、昨日の記事↓の「相続税法違反事件をめぐって大津地検検事(当時)と証人との間で交わされた生々しいやりとりの録音記録」がこれなんですね。
http://morikoshisoshiro.seesaa.net/article/384730830.html
「おかしなテストをすれば弁護側の反対尋問で露見する」というのは、「弁護人の先生方は、まさか無能な筈はないでしょうから、当然、反対尋問で撃破しますよね。そこが腕の見せ所ですよね。だから、証人テストにまで、口を挟まないで下さいよ。」ということでしょうか。
しかしながら、全く現実離れしています。
被疑者・被告人が、事前に打ち明けてくれれば良いですが、それでも、この記事の事件のように、「調書の方が真実」と認定する判決が圧倒的多数だと思います。
しかも、自分の運命を握っているのは検察官という意識で、検察官の言うことを妄信し、弁護人にも黙っている被疑者・被告人は、巨万といると思います。
被疑者・被告人にはなっていない第三者証人(とは言っても、微妙な立場の人も少なくありません)に至っては、我々弁護人が接触しようものなら、偽証教唆罪だの証人威迫罪だのと言われる始末で、どんな証人テストが行われているのか、知る由もありません。
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