以下は、昨日のブログ↓と同じ事件に関するYOMIURI ONLINE(2013年11月27日)からの引用です。
http://morikoshisoshiro.seesaa.net/article/381786124.html
「60年前に出生した産院で別の新生児と取り違えられたとして、東京都内の男性(60)らが墨田区の「賛育会病院」側に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は26日、病院側に計3800万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
宮坂昌利裁判長は、「男性は真の両親との交流を絶たれ、貧しい家庭環境で育つなど重大な精神的苦痛を被った」と指摘した。
男性は1953年に同病院で生まれ、別の家族の四男として育った。
しかし、2011年、本来の家族内で似ていない兄弟がいることが問題となり、病院の記録を調べて取り違えの疑惑が発覚。
昨年1月に行ったDNA鑑定で、男性が本来の家族の長男であることが判明した。
判決は、男性が出生直後、助産師らに産湯に入れてもらうなどしている間に、男性の13分後に出生した別の男児と取り違えられたと認定。
その上で、男性が生活保護を受ける家庭環境で育ち、進学をあきらめて中学卒業後に町工場に就職した一方、取り違えられた男児は裕福な家庭で育ち、大学に進学したと指摘した。
原告の実の両親は取り違えの事実を知らないまま他界しており、判決は「生活環境の格差は歴然としており、男性は重大な不利益を被った。真の親子の交流を永遠に絶たれた両親と男性の喪失感や無念は察するに余りある」と述べた。
病院側は時効(10年)の成立も主張したが、判決は「DNA鑑定の結果が明らかになった時から時効がスタートする」と判断した。
男性の代理人の弁護士は判決後、「男性の人生が狂わされたことの重大さを理解した判決だ」と評価。
一方、賛育会病院は「判決内容を確認し、今後の対応を検討したい」としている。」
本件の場合、診療契約上の債務不履行責任も、不法行為責任も、両方成り立ちえますが、不法行為責任については、「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」と定められています(民法724条)。
この後者の20年は除斥期間と呼ばれており、基本的には、不法行為の時から20年が経過すると、問答無用で権利行使ができなくなります。
一方、債務不履行責任の消滅時効期間は10年で(民法167条1項、商行為ではない場合)、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」ものとされています(民法166条1項)。
最高裁昭和45年7月15日判決は、上記の「権利を行使することができる時」とは、「単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要と解するのが相当である。」と判示しています↓
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=54004&hanreiKbn=02
しかも、不法行為責任とは異なり、除斥期間の定めはありませんので、60年も前の債務不履行責任が認められた訳です。
学生時代は、債務不履行構成と不法行為構成による差異ということで、何の疑問も感じないまま暗記したものですが、法律構成によって、このような不均衡が起こること自体、おかしな話ですので、何とかして欲しいものです。
それにしても、診療録の保存期間は5年ですので(医師法24条)、60年前の出産に関する記録が残っていたのは、奇跡的ですね。
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