以下は、朝日新聞デジタル(2013年05月30日)からの引用です。
「証拠開示した取り調べの録画映像をNHKに提供したのは証拠品の目的外使用にあたるとして、提供した男性弁護士を大阪地検が大阪弁護士会に懲戒請求したことが分かった。
映像はNHKが実際に放送したが、弁護士は「一般の人に取り調べの実態を見てもらうことは大切。可視化(録音・録画)を議論する上で貴重な情報であり、懲戒請求は不当な圧力だ」と反発している。
弁護士らによると、取り調べの対象となったのは、2010年に大阪市内の住宅で兄がけんかの末に弟の首を絞めて死なせたとされた傷害致死事件。
兄の取り調べの様子を録画した映像が大阪地裁での裁判員裁判で再生され、翌11年7月に「弟から攻撃された兄が意図せずに首を絞める形になっても不自然ではない」として無罪が言い渡された。
兄の弁護人を務めた弁護士は無罪判決確定後、映像を収めたDVDをNHKに提供。
NHKは先月5日、兄や取り調べを担当した検察官の顔をぼかして特定できないように処理し、報道番組「かんさい熱視線 『虚偽自白』取調室で何が」で放送した。
兄に対しても事前に放送の承諾を得ていたという。
刑事訴訟法には、検察が開示した証拠の複製品を裁判以外の目的で弁護人が他人へ譲渡することを禁じた規定がある。
大阪地検はこの規定に基づき弁護士から事情を聴き、今月23日に懲戒請求したという。
今後、大阪弁護士会が懲戒相当と判断すれば、識者を交えた懲戒委員会で戒告や業務停止などの処分が決まる。
NHK大阪放送局広報部は「DVDの入手経緯は取材や番組制作の過程に関するため答えられないが、取り調べの課題を伝える目的でプライバシーに配慮して放送した」としている。
■一律禁止規定、議論する必要
元裁判官の木谷明弁護士の話
取り調べ映像の提供は刑事訴訟法上問題があるとする検察の主張は理解できるが、一方で映像は公開された法廷で再生されている。
NHKは男性の了承を得ており、損害を受けた人は事実上いない。
今回の懲戒請求は検察側にとって不都合な行動は許さないというメッセージとも読み取れる。
捜査の問題点を検証するという公益性を考慮せず、目的外使用を一律に禁止する規定についての議論も必要だろう。」
私が新人弁護士だった時には、刑事訴訟法に、そんな規定はありませんでしたが(それでも裁判官に文句を言われたことはあります)、公判前整理手続や、証拠開示手続が導入されたことに伴い、以下のような規定が新設されているのですね。
第281条の3 弁護人は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等(複製その他証拠の全部又は一部をそのまま記録した物及び書面をいう。以下同じ。)を適正に管理し、その保管をみだりに他人にゆだねてはならない。
第281条の4 被告人若しくは弁護人(第440条に規定する弁護人を含む。)又はこれらであつた者は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
1.当該被告事件の審理その他の当該被告事件に係る裁判のための審理
2.当該被告事件に関する次に掲げる手続
イ 第1編第16章の規定による費用の補償の手続
ロ 第349条第1項の請求があつた場合の手続
ハ 第350条の請求があつた場合の手続
ニ 上訴権回復の請求の手続
ホ 再審の請求の手続
ヘ 非常上告の手続
ト 第500条第1項の申立ての手続
チ 第502条の申立ての手続
リ 刑事補償法の規定による補償の請求の手続
2 前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。
第281条の5 被告人又は被告人であつた者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、前条第1項各号に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2 弁護人(第440条に規定する弁護人を含む。以下この項において同じ。)又は弁護人であつた者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、対価として財産上の利益その他の利益を得る目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときも、前項と同様とする。
日弁連は、これに反対する会長表明をしたところですが↓、刑事訴訟法は、改正・施行されてしまいました。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2004/2004_04.html
「前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする」とされてはいるものの、違反していることは事実なので、さすがに、懲戒不相当という訳には行かないのではないでしょうか。
まあ、この内容ですので、戒告程度の懲戒処分であれば、勲章みたいなものですし、審査の過程でだけでなく、充分に議論する必要があると思います。
札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎法律事務所ホームページ