以下は、朝日新聞デジタル(2012年12月6日)からの引用です。
「幻覚や妄想の作用がある脱法ハーブを吸って追突事故を起こしたとして、危険運転致傷罪に問われた会社員の柘原(つげはら)英文被告(34)に対し、京都地裁(樋口裕晃裁判長)は6日、懲役1年10カ月(求刑懲役2年6カ月)の実刑判決を言い渡した。
脱法ハーブの吸引による交通事故で「故意」が要件となる危険運転致傷罪の成立を認めた判決は全国で初めてとみられる。
判決によると、柘原被告は6月9日、脱法ハーブを吸って幻覚や妄想にとらわれ、正常な運転が困難な状態なのに、京都市伏見区の国道1号で軽貨物車を運転。
前を走っていた軽乗用車に時速約60キロ以上で追突事故を起こし、運転していた40代の女性と同乗の娘2人に首のねんざなどのけがを負わせた。
被告は公判で「ハーブは吸ったが、運転が困難との認識はなかった」と述べ、危険運転致傷罪にはあたらないとして無罪を主張していた。
樋口裁判長は判決で、被告が2009年ごろから脱法ハーブを常用し、危険な運転を繰り返していたと認定。
事故当時も「正常な運転が困難との認識があり、故意があったと認められる」と結論づけた。 」
かつては、交通事故は業務上過失致死傷罪(刑法211条)とされ、法定刑が「5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」でしたが、悲惨な交通事故が相次いだことから、より重く処罰できるようにということで、2007年に、自動車運転過失致死傷罪(同法211条2項)が新設されたました。
ですので、交通事故の場合、通常は、自動車運転過失致死傷罪で、法定刑は「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」です。
本件で適用された危険運転致死傷罪(刑法208条の2)は、2001年に新設されたものですが、法定刑は、人を負傷させた場合は「15年以下の懲役」、人を死亡させた場合は「1年以上の有期懲役」と更に重いです。
幾つかの態様がありますが、本件は、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者」にあたるとして起訴され、判決もこれを支持したということになります。
前科がなければ、2人に首のねんざなどのけがを負わせただけで、いきなり正式裁判で懲役刑を求められるということはない筈ですしも、いきなり実刑ということもない筈ですので、交通事故の前科があるのでしょうし、「2009年ごろから脱法ハーブを常用し、危険な運転を繰り返していた」との認定も、それによるものなのでしょうね。
求刑(懲役2年6月)にしても、判決(懲役1年10月)にしても、通常の自動車運転過失致死傷罪の法定刑(7年以下の懲役)の範囲内なので、本件に限って言えば、余り実益がない話ではありますが、今後、脱法ハーブがらみで重傷事故や死亡事故が発生した時のことを考えると、当然、道は切り開いておく必要はありますし、この判決が報道されることにより、脱法ハーブを吸引して運転するなどという無謀な行為が、少しでもなくなれば良いのですが。
札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎法律事務所ホームページ