以下は、朝日新聞デジタル(2012年11月22日)からの引用です。
「NHK受信料の未払いがあっても、5年以上前の分は時効――。
受信料を督促されてからいつまでさかのぼって支払うべきかが争われた裁判で、東京高裁(南敏文裁判長)は21日、「5年たてば時効」との判決を言い渡した。
この裁判は簡裁から始まり、地裁を経て高裁が最終審となる。
NHKの上告が棄却され、この判断が確定した。
NHKは裁判で「民法の原則では一般の債権(借金)の時効は10年だ」と主張。
「全国には204万人を超える未納者がいるが、わずか5年のうちに全員に対して法的手続きをするのは非現実的だ。『逃げ得』を許し、不公平になってしまう」と訴えていた。
だが判決は、2カ月ごとに支払う受信料の性質から、家賃などと同様に時効は5年と判断。
「そもそも受信契約を結んでいない人も多く、公平性は重要といえない」と述べた。
NHKは、千葉県柏市の男性に対して督促から5年9カ月前までの受信料約10万円の支払いを求めていたが、判決は督促の5年以上前にあたる約1万円分は時効が成立したと判断した。
同様の裁判では今年2月にも東京高裁で「時効は5年」との判決が確定している。
判決を受け、NHK広報局は「他の裁判の動向を見極めつつ、対応していきたい」とコメントした。」
確かに、他にも裁判は係属しているようですね。
という訳で、以下は、日経電子版(2012/11/16)からの引用です。
NHK受信料、5年で時効 札幌地裁判決
「受信料の滞納分をNHKが何年さかのぼって請求できるかが争点となった訴訟の控訴審判決で、札幌地裁は16日、5年とした一審苫小牧簡裁判決を支持、10年と主張したNHKの控訴を棄却した。
NHKは上告した。
NHKによると、同種訴訟は今回を含め全国で13件あり、現在6件が係争中。
時効が5年か10年かの判断は分かれ、東京高裁は2月、高裁レベルでは初めての判決で5年と結論付けた。
石橋俊一裁判長は受信料の支払われ方に注目。受信料債権の消滅時効を月々一定の額が支払われる家賃などと同じ5年と判断し、個人間の借金など一般的な債権と同じ10年としたNHKの主張を退けた。
判決によると、NHKは苫小牧市の男性に2005年6月以降の受信料約19万円の支払いを請求。苫小牧簡裁は7月、5年の時効を適用し約15万円の支払いを命じた。
NHK広報局は「時効は10年との主張は変えずに訴訟を続ける」としている。〔共同〕」
民法167条は、「債権は、10年間行使しないときは、消滅する。」という一般原則を定めていますが、同法169条は、「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する。」と定めています。
2か月毎が「年又はこれより短い時期」に該当することは、小学生にでもわかることなので、10年という判断もあるというのが、むしろ驚きです。
ちなみに、ウィキペディアに記載されている、10年よりも短い短期消滅時効は、以下のとおりで(法律名の記載がないのは民法)、短期消滅時効が定められているものは、意外と多いです。
5年
追認できる時からの取消権(126条)
年金・恩給・扶助料・地代・利息・賃借料(169条)
財産管理に関する親子間の債権(832条)
商事債権(商法第522条)
相続回復請求権 相続権を侵害された事実を知ったときから(884条)
金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利(地方自治法第236条)
労働者の退職手当(労働基準法第115条後段)
3年
医師・助産師・薬剤師の医療・助産・調剤に関する債権(170条1号)
技師・棟梁・請負人の工事に関する債権 工事終了のときから(170条第2号)
弁護士・弁護士法人・公証人の職務に関して受け取った書類についての義務に対する権利(171条)
不法行為に基づく損害賠償請求権 損害および加害者を知ったときから(724条、製造物責任法第5条)
為替手形の所持人から引受人に対する請求権(手形法第70条第1項)
約束手形の所持人から振出人に対する請求権(手形法第77条第1項第8号、なお、同法第78条第1項参照)
2年
弁護士・弁護士法人・公証人の職務に関する債権(172条)
生産者・卸売または小売商人の売掛代金債権(173条1号)
居職人・製造人の仕事に関する債権(173条第2号)
学芸・技能の教育者の教育・衣食・寄宿に関する債権(173条3号)
詐害行為取消権:債権者が取消しの原因を知った時から(426条)
労働者の賃金(退職手当を除く)・災害補償その他の請求権(労働基準法115条前段)
1年
月又はこれより短い期間で定めた使用人の給料(174条1号)
労力者(大工・左官等)・演芸人の賃金ならびにその供給した物の代価(174条第2号)
運送費(174条第3号)
ホテルや旅館の宿泊料・キャバレーや料理店などの飲食料(174条第4号)
貸衣装など動産の損料(174条5号)
売主の担保責任:買主が事実を知った時から(566条)
遺留分減殺請求権:減殺すべき贈与、遺贈があったことを知った時から(1042条)
運送取扱人の責任(商法第566条第1項)
陸上運送人の責任(商法第589条・商法第566条第1項準用)
海上運送人の責任(商法第766条・商法第566条第1項準用、国際海上物品運送法第14条第1項)
船舶所有者の傭船者、荷送人、荷受人に対する債権(商法第765条)
為替手形の所持人から裏書人や振出人に対する請求権(手形法第70条)
約束手形の所持人から裏書人に対する請求権(手形法第77条第1項第8号)
支払保証をした支払人に対する小切手上の請求権(小切手法第58条)
6ヶ月
約束手形・為替手形の裏書人から他の裏書人や振出人に対する遡求権または請求権(手形法第70条第3項)
小切手所持人・裏書人の、他の裏書人・振出人その他の債務者に対する遡求権(小切手法第51条)
時々、「毎月請求書を送っておけば、時効にかからないのですよね」と聞かれることがありますが、決してそのようなことはありません。
請求書を送る行為は、民法153条の催告に該当しますが、民法153条は、「催告は、6か月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事審判法 による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。」と定めています。
すなわち、飽くまで、消滅時効期間を経過する前にしておけば、その後の訴訟などの強力な手段を前提として、時効期間を6か月伸ばすことができるに過ぎませんし、消滅時効の期間をのばすことができるのは、一度だけです。
しかも、普通郵便で送っても、相手方に、「受け取っていない」と言われれば、それまでですので、注意が必要です。
札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎法律事務所ホームページ