以下は、朝日新聞デジタル(2012年11月16日)からの引用です。
「神奈川県逗子市のストーカー殺人事件で、小堤英統(こづつみひでと)容疑者(40)が被害女性への脅迫罪で執行猶予付きの有罪判決を受け、保護観察処分中だった今春、女性に大量のメールを送りつけていたにもかかわらず、担当する東京保護観察所が事実を把握していなかったことがわかった。
観察所は当時、被害女性との接触をメールを含めて一切禁じていた。
観察所の鈴木美香子次長は「警察や検察から情報は届いていなかった。知っていれば執行猶予の取り消しを検察に申し出た可能性が高い」と話している。
捜査機関と観察所が情報を共有する仕組みがあれば、その後の被害は防げたことになる。
小堤容疑者は元交際相手の三好梨絵さん(33)に「刺し殺す」などと書いたメールを送ったとして、昨年9月に懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受け、保護観察処分になった。
東京保護観察所によると、観察所は翌月、「被害者に一切接触しない」という「特別遵守(じゅんしゅ)事項」を小堤容疑者に課し、保護観察官が「接触には訪問や電話、メールも含む。違反すれば執行猶予が取り消される可能性がある」と伝えた。
その後、保護司はほぼ月2回、面談を続けてきた。
観察所への報告では、脅迫やストーカー行為をうかがわせる態度は見られず、面談を始めて2〜3カ月で明るくなり「早く仕事を見つけないといけない」などと話した、とされていた。
しかし実際には、今年3〜4月、小堤容疑者は三好さんに1千通超のメールを送っていた。
この時期も保護司は「態度に問題はなかった」と報告。
メールの送信履歴までは確認していなかった。
観察所は今月、殺人事件の報道で初めて大量メールを知ったという。
法務省によると、保護観察の対象者が遵守事項に違反した場合、対象者の家族や警察から情報が寄せられる例が多い。
しかし正式な通報制度はなく、現場の判断に任されているという。
観察所が遵守事項の内容を警察や検察に伝える制度もなく、今回も、警察や検察に伝えていなかった。
保護観察制度に詳しい福島大学大学院の生島浩教授(犯罪臨床学)は「観察所も警察も再犯防止という目的は同じだが、被害者の安全を重視した連携は不十分だった。ストーカーは再犯の可能性が高く、捜査機関が得た加害者の情報を観察所に提供するよう通達で定めるなど、情報共有を強化すべきだ」と話す。
〈保護観察処分〉
非行少年や罪を犯した成人を社会の中で更生させるため、保護観察所がボランティアの保護司を通じて生活態度や交友関係を把握し、指導する。
非行内容や罪に応じて守らなければならない特別遵守事項を課し、悪質な違反があれば検察に執行猶予の取り消しを申し出る。
昨年は1012人が遵守事項違反や再犯で執行猶予を取り消されている。
■警察庁長官「逮捕状読み上げに工夫の余地」
神奈川県逗子市のストーカー殺人事件で、逮捕状の資料に書かれた被害者の結婚後の名字などを捜査員が容疑者に読み上げていた問題で、警察庁の片桐裕長官は15日の会見で「記載内容について運用で工夫すべき余地があった」と述べた。
必要に応じて住所の一部などを伏せて記載する配慮をすることについて、法務省と検討を始めたという。
刑事訴訟法では、容疑者の逮捕前後に容疑事実の要旨を告げることなどを定めている。
片桐長官は「要旨の内容を恣意(しい)的に隠すのは不適当」とした上で、「問題は読み上げたかどうかではなく、要旨の記載のあり方」との認識を示した。
一方、ストーカー規制法改正案の提出時期について小平忠正国家公安委員長はこの日、「選挙後の国会」との見通しを示した。
◇
神奈川県逗子市のストーカー殺人事件について、県警の久我英一本部長は15日の記者会見で「最悪の結果になったことを大変重く受け止めている」と述べた。
元交際相手の男に対し、注意や警告をし、被害女性宅に緊急通報装置を設置するなどした県警の対応を説明しつつ、「警察として配慮、工夫の余地がなかったか調査したい」と語った。
また、ホームページに襲撃予告を書き込んだとして大学生を誤認逮捕した事件では「少年やご家族に心からおわびしたい」と陳謝。
「サイバー捜査や取り調べの問題点について徹底的に検証している」と述べた。
■桶川事件遺族ら「ストーカー規制法改正を」
逗子市のストーカー殺人事件を受け、1999年に女子大生が殺された桶川ストーカー事件など3事件の被害者の遺族らが15日、ストーカー規制法改正を求める要望書を警察庁と国家公安委員会に送った。
被害者や家族の意見を聴いて被害者保護のための法改正をすること、過去の事件の問題点を警察以外の第三者機関が検証し、結果を法改正に反映させることなどを求めている。」
どうして、色々な情報が、こま切れに出てくるのだろうかと思いますが、単なる執行猶予ではなく、保護観察付の執行猶予だったのですか。
軽微な犯罪の場合、罰金刑があれば略式罰金が選択されることの方がむしろ多いです↓
http://morikoshisoshiro.seesaa.net/article/275499681.html
脅迫罪にも罰金刑はありますので(刑法222条「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」)、今回の犯人に対しても、略式罰金が選択される余地はありました。
略式罰金ということになると、あっと言う間に身柄の拘束が解かれることになるところでした。
しかし、検察官としては、事件の内容からして、再犯の可能性が高いと考え、懲役刑を求める正式裁判を選択したのだと思います。
懲役刑とは言っても、軽微な犯罪で、しかも初犯であれば、いきなり実刑というのは量刑不当になってしまうので、裁判官としては、執行猶予付判決を言い渡さざるを得ません。
しかし、裁判官としても、やはり、再犯の可能性が高いと考えたのでしょう。
通常であれば、単なる執行猶予が選択されることが多く、いきなり保護観察付の執行猶予ということは余りないのですが、保護観察そのものによる再犯の防止に期待し、また、「遵守事項違反により執行猶予を取り消される可能性もあり(刑法26条の2、執行猶予の裁量的取消)、そうなれば、今回の刑で刑務所行きになるんだぞ」という抑止的効果、更には、「執行猶予期間に再犯に及べば、必ず執行猶予は取り消され(刑法26条、執行猶予の必要的取消)、今回の刑と再犯の刑とを合わせて、長い間刑務所に行くことになるんだぞ」という抑止的効果に期待して、保護観察付の執行猶予判決を言い渡したのだと思います。
しかし、残念ながら、自らの死を覚悟している犯人に対しては、全く効果がなかった訳です。
それにしても、確かに、逮捕状や勾留状には、「被疑事実の要旨」(刑事訴訟法200条)や「公訴事実の要旨」(同64条)を記載すれば足りるので、創意工夫の余地が全くなかった訳ではありません。
しかしながら、起訴状の記載すべき公訴事実は、「できる限り…事実を特定」しなければならないものとされていますので(同256条)、被害者の氏名や住所を特定しない訳には行きませんし、起訴状は、被告人に送達されることになっているので(刑事訴訟規則176条)、被告人に対して、被害者の氏名や住所を明かさないまま、裁判を行うことはできません。
判決書にも、当然、「罪となるべき事実」を記載することになりますし(刑事訴訟法335条)、被告人に、判決書を入手する権利がない訳がありません(同46条)。
ちなみに、略式罰金の場合にも、起訴状は同様に作成されますし(同462条)、略式命令にも「罪となるべき事実」を記載することになっています(同464条)。
結局、処分保留で釈放された後の犯行という訳ではありませんので、逮捕の際の警察官の対応がどうであろうと、同じ顛末となった可能性が極めて大で、そこを問題視するのは、いかがなものかと思いますし、マスコミに迎合するようなコメントを述べる〇〇に詳しい弁護士や大学教授が複数いることにも驚きます。
ただ、保護観察所との連携不足はその通りだと思いますし、ストーカー規制法の改正も必要だと思います↓
http://morikoshisoshiro.seesaa.net/article/301066813.html
札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎法律事務所ホームページ