以下は、ITmedia ニュース(2012年08月13日)からの引用です。
「釣りゲームの著作権を侵害されたとしてグリーがディー・エヌ・エー(DeNA)にゲームの配信差し止めと損害賠償を求めた訴訟の控訴審・知財高裁判決は、グリーの主張を全面的に退け、DeNAの釣りゲームは著作権侵害には当たらないと判断した。
このほど公開された判決文(高部真紀子裁判長)によると、両社の釣りゲームに共通するユーザーインタフェース(UI)などについて、著作権法で保護されない「アイデア」や、釣りゲームならではの「ありふれた表現」だと判決は指摘。
具体的な表現は異なっており、DeNA作品からグリー作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないとして、著作権の侵害を認めなかった。
アイデアと著作権
「アイデア」は著作権法では保護されないという大前提がある。
著作権法が保護するのは「著作物」であり、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法)。
保護されるものは具体的な表現であり、そのもとになったアイデアではない。
アイデアに著作権を認めないことで自由な創作が可能になっている。
一方、アイデアは特許法で保護される。
ただ、著作権と違い、特許は国に出願し、審査でその先進性を認められる必要がある。
創作か、ありふれた表現か
グリーは、DeNAの釣りゲーム「釣りゲータウン2」について、魚を釣り上げる際の「魚の引き寄せ画面」や、ゲームのトップ画面のリンクの配置や画面遷移などについて、グリーの「釣り★スタ」に酷似していると主張。
グリー側はDeNA作品がグリー作品の「翻案」に当たるとし、翻案権と同一性保持権、公衆送信権を侵害されたとしてDeNA作品の配信停止と損害賠償を求めていた。
モバゲータウンの「釣りゲータウン2」。
三重の同心円などがグリー作品と共通している。
DeNAはこれに対し、問題になった表現について、作品は釣りという「普遍的なテーマ」をモチーフにしたゲームである以上、「ありふれた表現」とならざるを得ない部分が多くあり、かつ画面サイズや操作系に制限がある携帯電話向けであるという前提から生まれたアイデアに基づくありふれた表現であり、創作性はないなどと主張して争っていた。
一審・東京地裁判決は、トップ画面が画面遷移などについてはありふれた表現として著作権侵害を認めなかったが、「魚の引き寄せ画面」について著作権侵害があったと判断。
DeNAに対し配信差し止めと約2億3400万円の損害賠償支払いを命じた。
DeNAは即日控訴し、二審は著作権紛争などが専門の知財高裁で審理された。
DeNA側は一審判決について、「魚の引き寄せ画面に採用された、特許登録もできないような極めてありふれたルール(アイデア)にヒントを得たにとどまる作品についても著作権侵害とすると、ゲームにおけるジャンルの形成を阻害するだけではなく、釣りゲームという普遍的なゲームジャンルにおいて極めて簡単なゲームのルールさえ使用できなくなる結果を生み、ゲーム製作に対する甚だしい萎縮効果をもたらす」として批判していた。
「翻案」とは
知財高裁判決では、著作物の「翻案」について、(1)既存の著作物に依拠し、(2)かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、(3)具体的表現に修正、増減、変更などを加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、(4)これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為──であり、表現自体ではない部分や表現上の創作性がない部分で既存の著作物と同一性があるだけのものを創作する場合は翻案と呼ばないことを確認している。
著作物として保護されるべき表現か、アイデアか
知財高裁判決は、グリー作品の「魚の引き寄せ画面」について、(1)ありふれた表現である、(2)アイデアの範疇に属する──として、DeNA作品がグリー作品の翻案権などを侵害しているとは認めなかった。
判決ではまず、両社のゲームにおける「魚の引き寄せ画面」について、(1)水中を真横から水平方向に描いている、(2)画面中央に三重の同心円と黒い魚影、釣り糸が描かれている、(3)背景は水の色を含め全体的に青色で、下方に岩陰が描かれ、釣り針にかかった魚影は水中全体を動き回るが背景の画像は静止している──という点で共通していることを指摘した。
その上で、次のように判断した。
(1)釣りゲームで水中のみを水平から描く釣りゲームは両社の作品以外に少なくとも5作品はあり、ありふれたものと言える。
(2)水中の画像に魚影、釣り糸、岩陰を描くこと、水中の画像の配色が全体的に青色であることは他作品にも見られ、また実際の水中の映像と比較してもありふれた表現だ。
またDeNA作品の青色はグリー作品に比べ明るい色調であり、同一の青色を使っているわけではなく、岩陰の具体的な描き方や位置も必ずしも同一とは言えず、具体的な表現は異なっている。
(3)三重の同心円の採用は従来の釣りゲームにはなかったため、DeNAのゲームはグリーのゲームからヒントを得たものと推測される。
だが同心円の採用は弓道や射撃、ダーツなどの同心円を釣りゲームに応用したというべきであって、釣りゲームに同心円を採用すること自体はアイデアの範疇に属する。
同じ同心円と言ってもその具体的な表現は両社のゲームで異なり、印象は必ずしも同一のものとは言えない。
(4)黒色の魚影と釣り糸の表現についても、釣りゲームで魚や釣り糸を表現すること自体はありふれたものだと言うべきだ。
魚を魚影で表現すること自体はアイデアの領域であり、また釣り上げに成功するまでの魚の姿を魚影で描き、釣り糸も描いているゲームは以前から存在しており、ありふれた表現と言うべきだ。
しかもその具体的な表現は両社のゲームで異なっている。
(5)静止した同心円と動き回る魚影の位置関係で釣り糸を巻き上げるタイミングを表現している点に「表現上の本質的な特徴がある」とグリーは主張するが、Flashゲームではタイミングを図ってクリックするというルールは一般的であり、一定のタイミングで決定キーを押することを「成功」とし、一定回数「成功」した場合にステージクリアとすることは「ゲームのルール」であり、これはアイデアの範疇に属する。
──と論じ、「魚の引き寄せ画面」については「DeNA作品の表現から、グリー作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない」と結論。
DeNA作品による著作権侵害を認めなかった。
釣りゲームである以上、ありふれた表現
トップ画面や釣り場選択画面などとその遷移方法についても、一審判決と同様に著作権侵害を認めなかった。
(1)両社作品には「トップ画面」「釣り場選択画面」「キャスティング画面」「魚の引き寄せ画面」「釣果画面」が存在し、ユーザーの操作で「トップ」→「釣り場選択」→「キャスティング」→「魚の引き寄せ」→「釣果」の順に遷移し、釣果画面からトップ画面に戻らずにゲームを繰り返すことができる点で共通する。
だが釣りゲームである以上、基本的な釣り人の一連の行動を素材として取り込み、釣り人の一連の行動の順序に即して配列したものであり、釣りゲームにおいてありふれた表現方法に過ぎない。
具体的な表現に異なる点があり、画面遷移に共通性があるからといって表現上の本質的な特徴を直接監督できるとは言えない。
(2)両社作品のトップ画面は、タイトル、湾の形をした釣り場全体を描いたイラストの下に釣り場選択画面へのリンクが貼られている、日誌画面、攻略法画面などへのリンクが配置されている──ことなどで共通している。
だがゲームのトップ画面にタイトルやイラストが記載されることはありふれたものと言わざるをえず、釣りゲームで釣り場選択画面へのリンクが配置されるのも、釣りゲームの展開上、ありふれたものだ。
日誌画面などへのリンクの配置も、釣りゲームユーザーの主要な呼応道パターンに照らすと、利用者がよく利用するページへのリンクを上方にまとまりよく配置するという、ユーザーの便宜を考慮したありふれたものと言わざるをえない。
また具体的な表現では多数の違いがある。
(3)両社作品の釣り場画面のイラストは、釣り場の湾について上空の視点から、海と山・白い砂浜・白波の立った海・灯台を描き、釣り場の名前が4つ配置され、各釣り場のキャスティング画面や釣り具選びなどへのリンクが配置されている点で共通している。
だが釣り場をイラストで掲載することはアイデアにほかならず、また同様の表示はほかの釣りゲームでも多数存在するありふれたものだ。
両作品の釣り場選択画面のイラスト自体は全く異なるものである。
4つの釣り場の表現についても、釣り人が釣りの経験を積むにしたがって、海釣り施設、防波堤、砂浜、そして磯へと、より難易度の高い釣り場にチャレンジしていくことは釣り人の常識だ。
リンクの配置もありふれたものだ。
──などとして、翻案権、同一性保持権の侵害を認めなかった。
また、DeNA作品のモバゲータウン上などでの表示が不正競争防止法上の不正競争行為(混同惹起)に当たるというグリーの主張も、「混同を生じさせる行為とは言えない」として退けた。
グリーは上告
DeNAは「主張が全面的に認められた」と二審判決を歓迎。
一方、逆転敗訴したグリーは「判決内容に承服できない」と上告。
業界が注目する訴訟の行方は最高裁で決着をつけることになる。」
裁判所のホームページに、判決全文が掲載されていました↓
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120810141349.pdf
上記報道も長文ですが、判決全文は実に67頁の長文です。
DeNAの「釣りゲータウン2」が、グリーの「釣り★スタ」の翻案、すなわち、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為にあたるかどうか。
要するところ、利用者がマネだと感じるかどうかということですので、人によって判断が異なり得るところではあります。
31頁以下が裁判所の判断ですが、ざっと読んだ限りでは、グリー側は、魚の引き寄せ画面での三重の同心円部分の類似性だけを取り上げて、著作権の侵害を主張し、1審判決もそれを認めたのに対して(勿論、グリー側は他にも沢山主張はしたのでしょうが、認められたのはこの部分のみ)、DeNA側は、他の釣りゲームのみならず、他の様々なゲームも取り上げて、部分的に類似することはある意味仕方がないし、全体としては異なるゲームであることを主張し、高裁判決ではそれが認められたという感じです。
さて、最高裁は、どう判断するのでしょうか↓
http://morikoshisoshiro.seesaa.net/article/285607381.html
札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎法律事務所ホームページ