以下は、朝日新聞デジタル(2012年7月16日)からの引用です。
「富山県で起きた少女強姦(ごうかん)をめぐる「氷見(ひみ)事件」で、真犯人の逮捕によって冤罪(えんざい)とわかった柳原浩さん(45)の逮捕前、県警が被害者の下着に付いた精液の鑑定で、柳原さんの血液型に結びつかない検査結果を得ていたことがわかった。
県警などを相手取った国家賠償訴訟で、柳原さん側は「捜査の重大な過失」を立証する重要な証拠だとして、新たな争点と位置づける準備書面を近く富山地裁に提出する方針だ。
事件は氷見市内の民家で2002年1月と3月、女子高校生2人が相次いで襲われた。
県警は4月、2件目の強姦未遂容疑で柳原さんを逮捕し、富山地検高岡支部がその後に両事件とも起訴した。
無罪確定後、逸失利益など約1億円の支払いを求める国賠訴訟で、県警側は捜査の不十分さを認めたが、「犯人性を否定する証拠を意図的に無視した事実はない」と、捜査の違法性は否定して争っている。
原告側が問題視する鑑定書は、1件目の強姦事件で県警科学捜査研究所が同年2月に作成していた。
被害者の着衣など7枚について精液の付着を調べたところ、下着に弱い反応が出て、顕微鏡でも精子が確認された。
その周りの3カ所の部位に絞って血液型を調べると、「A抗原」と「H抗原」に反応してA型と判定された。
ところが、柳原さんはAB型。
犯人であれば「A抗原」と「B抗原」の両方に反応するはずだった。
結果的に真犯人の血液型は検査結果と矛盾しなかった。
原告側は次回の口頭弁論で、「犯人性を否定する科学的証拠を無視した」として、鑑定した技術吏員の証人採用を求める。
一方、県警側はこの鑑定結果について、被害者の血液型の影響があることに加え、精液の付着量が少ないため、精液の血液型を明確に判定することはできないとしており、「犯人性を打ち消すとはいえない」と反論するとみられる。
国賠訴訟では、この血液型鑑定の不一致だけでなく、当時、柳原さんの犯人性を疑わせる複数の証拠があったことが次々と開示されている。
二つの事件の現場に残された足跡の長さは28センチ前後だが、柳原さんの足の大きさは24.5センチ。また、2件目の事件の犯行時間帯に、柳原さんが自宅の電話を使った記録も得ていた。
さらに、「自白」した柳原さんは、逮捕直前に犯行現場を案内するよう捜査員に求められたが、4回も違う家を指し示した。
捜査員が「国道の山側で犯行した覚えはないか」などと事実上の誘導をして、1時間かかって被害者の家にたどり着いた。
柳原さんの冤罪を県警が認めたのは、06年8月に鳥取県警が真犯人を逮捕した後で、柳原さんはすでに受刑後だった。」
この事件では、刑事補償法による刑事補償だけでなく、国家賠償法による損害賠償請求も求めているのですね↓
http://morikoshisoshiro.seesaa.net/article/280508460.html
ただ、再審無罪を含めて、無罪事件の国家賠償請求が認められることは、極めて稀です。
国家賠償法1条は、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と定めており、条文上は、被告人側が「重大な過失」を立証することまでは要求されていません。
しかしながら、判例上は、「公訴の提起は、検察官が裁判所に対して犯罪の成否、刑罰権の存否につき審判を求める意思表示にほかならないから、公訴提起時における検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証とは異なり、公訴提起時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により被告人を有罪と認めることができる嫌疑があれば足りると解すべきであり、刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに検察官の公訴提起が違法となるわけではない。したがって、検察官の公訴提起が国家賠償法上の違法に当たると評価されるのは、有罪と認められる嫌疑がなく、経験則・論理則に照らして公訴提起の合理性を肯定できない場合に限られる。」などとされており、事実上、被告人側が重大な過失を立証しなければならないからです。
そのかわりに、刑事補償法4条1項で、過失を要件とすることなく、刑事補償を認めているじゃないかということなのでしょうが、刑事補償と言っても、「勾留1日当たり1,000円以上12,500円以下の範囲内で、裁判所が定める額」に過ぎませんので、たまったものではありません↑
札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎法律事務所ホームページ