以下は、毎日jp(2012年07月04日)からの引用です。
「特定医療法人健生会「土庫(どんご)病院」(奈良県大和高田市日之出町、山西行造院長)が2010年9月、検査を受けた男性(53)に対し、胃がんの結果が出たのに胃潰瘍と誤って告げたうえ、1年間気付かず、放置していたことが関係者への取材で分かった。
病院はミスを認めて謝罪したが、男性はその後、末期がんと判明。
治療を続けていたが、今月3日亡くなった。
家族は損害賠償などを求めて提訴する方針。
亡くなったのは、同県橿原市の建設業、石田政裕さん。
10年2月、同県内の別の病院で胃カメラ検査を受け、胃潰瘍と診断された。
ただ、念のため、同9月9日、土庫病院で改めて検査を受けた。
同病院によると、胃カメラと細胞検査の結果、検査を担当した医師が胃がんと診断。
しかし、同28日、別の男性医師が大腸など他の検査結果は本人に伝えたが、胃は2月の検査結果を見て胃潰瘍と思い込み、本人に胃潰瘍と告げて胃薬を処方した。
胃がんとした最新の書類や写真などの検査結果が手元に届いていたが、男性医師は見ていなかったという。
石田さんが1年後の昨年9月に土庫病院で人間ドックを受けた際、前回の検査で胃がんとした検査結果が見つかり、告知ミスが判明。
すぐに兵庫県内の病院で手術を受けたが、腹膜播種(はしゅ)(腹部の中にがん細胞が散らばった状態)が確認され、手がつけられず閉腹。
末期がんと診断された。
同11月、セカンドオピニオンを得るために診断を受けた大阪市内の病院で、余命は「来年(12年)9月まで」と告げられた。
土庫病院は山西院長らが3日午後、取材に応じた。
「担当医師の単純な勘違いだった。検査結果を二重三重にチェックするシステムが不十分だった」と釈明。
10年9月時点で適切に治療を受けていたらどうだったかについては、「診断結果の説明が(石田さんに)できず、精密検査などができなかったので、当時の(がんの)進行度は推定でしか分からない。現在、専門家の意見を聞いている」と明言を避けた。
ただ、山西院長は「(治療が)遅れたことでがんの進行を許したのは否定できない事実。本当に申し訳ない」と話した。
家族によると、石田さんは先月末に体調を崩し、土庫病院へ入院。
今月3日朝、突然息苦しさを訴え、午前9時過ぎに亡くなった。」
定期的な検査を怠っていたり、検査データを見落としたりして、がんの発見治療が遅れたという医療過誤は少なくないですが、明確にがんと診断しながら、1年も放置したというのは、珍しいのではないでしょうか。
胃がんではありませんが、肝臓がんの見落としの医療過誤事件の訴訟をしたことがあり、その事件では、体積倍化速度(がんの体積が2倍になる速度)の公式を用いて、エクセルを使って地道にシュミレーションし、進行速度の相当速いがんであっても、定期的に画像検査をして早期にがんを発見治療していれば、相当の余命があったことを立証できたため、死亡したこと自体に関する損害を含めて、損害賠償を認めて貰うことができました。
本件でも、専門家の意見というのは、そのような観点から行われるものと思われますが、丸々1年治療が遅れて、死期が変わらなかったとは思えません。
最高裁判所平成12年9月22日判決↓は、「医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかったことと患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、右医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には、医師は、患者が右可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。」と判示していますので、死亡との因果関係が明らかではない場合でも、それなりの損害賠償義務を負うことは勿論ですが、この事件の原審が認めていた慰謝料は、僅か200万円です。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=54798&hanreiKbn=02
また、最高裁判所平成23年2月25日判決↓は、「医療行為が著しく不適切なものであった場合でない限り、適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任の有無を検討する余地はない」と判示しています。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81103&hanreiKbn=02
最高裁平成12年判決の事案は、救急医療における救命ミスによる短時間での死亡であり、本件の場合には、がんが発見されてから、仮に死がまぬがれないものだとしても、本人や遺族が、どのように暮らして行けたのかという観点からの考察が必要だと思いますし、本件は、最高裁平成23年判決の事案とは異なり、著しく不適切なものであったことは明らかですが、いずれにしても、我が国の判例における損害賠償、特に慰謝料に関する考え方は、被害者にとっては充分納得できるものではないと思います。
札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎法律事務所ホームページ