以下は、ビジネスジャーナル(2012.06.07)からの引用です。
「裁判官、検察官、弁護士になるには、司法試験に合格した上、司法修習という1年間の厳しい研修を受けなければならない。
この研修期間には、国から修習生に給与が支払われてきたが(「給費制」)、財政難などを理由に昨年10月に廃止。
翌月に司法修習が始まった新65期司法修習生から「貸与制」がスタートした。
例えて言うならば、研修期間中の新入社員に給与を払わず、かわりに生活費を貸し付け、後で返済させる、まるでブラック企業のような仕組みだ。
5月23日、東京都内で、給費制復活を求める市民集会が開かれた。
会には、司法試験を受けたばかりの法科大学院(ロースクール)卒業生も駆けつけた。
神戸のロースクール修了生(34歳)Kさんも、そのひとりだ。
Kさんはバツイチで子どももいる。
法律事務所の事務員として5年働く中で、離婚に悩む人から相談を受けるようになったのをきっかけに、法律家を目指した。
幸い学費免除で国立大学のロースクールに通い、無事卒業した。
事務所の仕事は債務整理が多く、債務整理方法の一種である個人再生の認可が下りた依頼者が、自殺したことがある。
借金の恐ろしさにショックを受けた。
そうした経験から「国が強制的に借金を背負わせる貸与制に、理不尽なものを感じています」と打ち明け、こう訴えた。
「私のような立場の人間でも、自由に法律家を目指すことができるような制度になってほしいな、と思います」
そもそも1999年から開始された、ロースクールなどを導入した司法制度改革では、Kさんのような社会人が、その経験を活かして法律家として活躍できることを目指したものであった。
ところが現状は、ロースクールの学費が高く、卒業しても司法試験に受かる割合が低く、なんとか弁護士になれても就職難と経済苦にぶつかるとあって、志望者が激減する異常事態が起きている。
司法修習修了時に700万円の借金!
それに追い打ちをかけたのが、給費制廃止だった。
新65期生の場合、ロースクールに通うために奨学金制度を利用した人は52%で、貸与型の場合の平均は約340万円(日弁連調べ)。
司法修習のとき貸与金を申請したのは全体の84%で、平均は月23万円×13回の299万円(最高裁発表)。
新米弁護士・検事・裁判官たちは700万円近い債務を背負って、世に出ることが一般的になったのだ。
その結果、法曹志望者(法科大学院適性試験志願者数)は、2003年の約6万人から、11年には8000人を切るまでに激減した(公益財団法人日弁連法務研究財団適性試験管理委員会発表による)。
貸与制には別の問題もある。
貸与したカネを確実に回収するため、連帯保証人を2人つけるか、それが無理なら信販会社オリエントコーポレーション(オリコ)に保証料(貸付1000円につき21円)を払って、機関保証してもらわなければならない。
生身の人間を借金のカタにする連帯保証は「平成の奴隷制」と呼ばれ、多くの悲劇を生んできた。
また、オリコは、高齢者へのリフォームや布団の悪徳商法業者と提携するなど、消費者トラブルでしばしば名前が挙がってきた。
貸与を受けた元修習生(弁護士ら)は、返済が滞ったら、国に代位弁済したオリコから取り立てを受けることになる。
司法修習を管轄し、修習生に対してカネを貸す立場の最高裁は、いったい何を考えているのか?
筆者の取材に対し最高裁は、「貸与制への移行は基本的に立法政策の問題であるから、裁判所が見解を述べることは差し控えたい。税金から貸与される以上、保証人を立ててもらうことには合理性がある。オリコは公正な企画競争の結果、選定した」と回答した。
なお、「公正な競争」に応募した金融会社は、オリコのほかわずか1社だ。
開始からわずか数カ月で批判集中の貸与制
これではまずいと、「政治」も腰を上げた。
前述の集会では、民主党法務部門会議で座長を務める松野信夫参議院議員が、「自民党、公明党と何度も実務協議を重ねた。しっかりした法曹養成に関する審議会を立ち上げ、給費制復活も含め経済的負担軽減を検討する」と表明。
弁護士でもある公明党の大口善徳衆議院議員も、「このままでは法曹の基盤が崩れる。審議会の結論が出たら、工程表を作って、政府にはすぐ対応してもらう」と発言し、与野党議員が口を揃えた。
国会では現在、経済的困難を抱えた元修習生(弁護士ら)に対し貸与金の返済を猶予する「裁判所法の一部を改正する法律案」が審議中だが、民主・自民・公明は、4月20日に交わした3党合意にもとづいて、松野、大口両議員が語った「法曹養成に関する審議の場」設置を盛り込んだ修正案をまとめた。
昨年11月から始まった途端に修正が必要になるとは、貸与制の欠陥は隠しようもない。
日弁連・司法修習費用給費制存続緊急対策本部委員の新里宏二弁護士は、「3党合意のなかに、給費制復活の望みが残された。まずは今国会で、修正案を通してほしい。ただ、法曹養成改革は大問題だ。『希望者が誰でも目指せ、国民に信頼される制度』をつくるために、日弁連一丸となって取り組みたい」と話している。
法曹界をより健全なものにするためにも、法曹育成改革は待ったなしだ。
法案審議から、目が離せない。」
目が離せないという割には、フォローがないですが、6月8日の衆議院本会議において可決された「裁判所法の一部を改正する法律案に対する修正案は↓
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/syuuseian/3_5246.htm
同じく裁判所法の一部を改正する法律案に対する附帯決議は↓
http://www.shugiin.go.jp/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/houmu4258955206BEEAE249257A15001F8874.htm
衆議院での附帯決議においては、向後1年間「法曹の養成に関するフォーラム」に代わる合議制の組織において法曹養成制度全般について検討させること、その際「法曹を目指す者の経済的・時間的な負担を十分考慮し、経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないようにすること」、「司法修習生に対する経済的支援については、司法修習生の修習専念義務の在り方等多様な観点から検討し、必要に応じて適切な措置を講ずること」等が明記されています。
また、衆議院法務委員会の審議においても、修正法案に基づく返還猶予は65期にも遡及して適用される、「経済的支援」における検討の内容には給費制の復活も含む、という答弁がされており、今回の法案の修正は、給費制復活に道をひらくものとなっているそうです。
それはともかく、この問題に対するマスコミの報道は、当初は、「弁護士のエゴだ」という論調のものが目立ちましたが、随分と風向きが変わって来ましたね。
それにしても、法曹志望者は相当減っているだろうとは思っていましたが、2003年の約6万人が、11年には8000人を切るまでと、殆ど10分の1近くにまで激減しているとは、驚きです。
これでは、法科大学院が次々と募集を停止するのも、当然のことです↓
http://morikoshisoshiro.seesaa.net/article/272578334.html
とは言え、ロースクールの学費が高く、卒業しても司法試験に受かる割合が低く、なんとか弁護士になれても700万円近い債務を背負っており、更に、就職難と経済苦にぶつかるという現状では、法曹を志望せよというのは、無理な話です。
そして、借金の返済に追われている弁護士に、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命」(弁護士法1条)とせよといっても、なかなか難しいと思いますし、そのような弁護士に依頼するのは、依頼者としても、不安なのではないでしょうか。
借金とは無縁でこの仕事ができていることに、感謝感謝です。
司法は、最後の砦ですので、「希望者が誰でも目指せ、国民に信頼される制度」でなければなりません。
札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎法律事務所ホームページ