以下は、YOMIURI ONLINE(2012年5月21日)からの引用です。
「全国の地検で知的障害を持つ容疑者の取り調べ改革が進む中、長崎地検で始まった新たな取り組みが注目を集めている。
地元のNPO法人が障害者の取り調べに専門家を派遣し、福祉施設が刑期を終えた障害者らを受け入れることで、早期の社会復帰につなげる試み。
地検が「施設での更生」を条件に裁判で執行猶予を求めて認められる“成果”も出ており、最高検は同様の仕組みを全国に普及させたい考えだ。
「取り調べで、ちゃんと答えられたことは一度もない」。軽度の知的障害があり、3月に佐世保刑務所で5度目の服役を終えた男性(74)は振り返る。
2009年、同居していた兄から受けた暴力の憂さを晴らそうと、金もないのに居酒屋で飲み、無銭飲食で逮捕された。
取り調べで事情を説明しようとしたが、検事から「否認」や「黙秘権」など難解な言葉を並べられ、あきらめた。
「『やったんだな』と叱られるように聞かれる。言えたのは『はい、すいません』だけ」と男性は話す。
知的障害者の取り調べの見直しは、2年前の大阪地検特捜部の不祥事を受けた検察改革の一環として始まった。
障害者が取り調べで誘導されることなどを防ぐため、全国の地検が昨年7月から取り調べの録音・録画(可視化)を始め、これまでに400件以上実施している。
東京、大阪、名古屋、横浜、長崎の5地検では、福祉や心理学の専門家が検察官に取り調べ方法を助言したり、取り調べに同席したりする「助言・立会人」の試みも始まった。
長崎地検では2月から、障害を持つ出所者の社会復帰を支援するNPO法人「長崎県地域生活定着支援センター」が、大学教授や特別支援学校勤務経験者などを助言・立会人に推薦する仕組みを作った。
同地検の原山和高次席検事は「容疑者の本音を引き出すことができ、真相解明に役立つ」と評価する。
全国の年間の新規受刑者の約2割にあたる約6000人に障害の疑いがあり、犯罪を繰り返す「累犯障害者」も多い。
取り調べで障害を把握し、ケースによっては不起訴や執行猶予とすることで早期に福祉サービスを受けさせられれば、再犯の抑制にもつながる。
2月の長崎地裁五島支部での窃盗事件の公判では、地検が知的障害のある男性被告に「施設への入所と更生支援プログラムの受講」を条件として、執行猶予付きの懲役刑を求刑し、認められた。
被告は、社会福祉法人「南高愛隣会」の施設で更生に取り組んでいる。
同会は、3月末までに同じような元被告を延べ80人以上受け入れている。
同会の田島良昭理事長(67)は「犯罪者に刑罰を科すことに重点を置いてきた刑事司法が、犯罪者の社会復帰へつなげる仕組みに変わり始めた。
地検と協力し、障害者の自立や更生を後押しできるプロセスを作り上げていきたい」と話す。
最高検の林真琴総務部長は「長崎の取り組みは、累犯障害者の再犯防止と社会復帰につながる第一歩。この仕組みを全国で整えたい」と話している。」
心神喪失や心神耗弱と判断されれば、心神喪失者等医療観察法による諸々のケアが用意されています↓
http://morikoshisoshiro.seesaa.net/article/270652241.html
しかし、軽度の知的障害くらいでは、心神耗弱と判断されることはありませんし、高齢というだけでは、勿論同様ですが、万引きや無銭飲食等を繰り返してしまう人は、そのような方が多いです。
長崎県地域生活定着支援センターのホームページ↓に掲載されている「福祉の支援を必要とする矯正施設等からの退所者の問題の影には、これまで本来セーフティネットであるべきはずの社会福祉が、この問題に目を向けてこなかったという現実があります。その結果、我が国の刑務所は今や、その一部が福祉の代替施設と化し、司法と福祉の狭間にこぼれ落ちた障がい者・高齢者等が罪を繰り返し、刑務所へ何度も入ってくるという累犯の状態が、今なお繰り返されています。彼らは、福祉の支援が行き届かず再犯を余儀なくされた結果、かろうじて司法というセーフティネットに引っ掛かり、刑務所でやっと保護されていたのです。」という言葉のは、まさにその通りだと思います。
http://www.airinkai.or.jp/jigyo/annai_teichakushien.html
何度刑務所に行っても犯罪を繰り返してしまう人にとっては、社会から隔離することにより、その間は犯罪を犯さないという効果はあるにしても、出所後の再犯を防止するという効果は、期待できません。
当然、本人の社会復帰に寄与することも、期待できません。
加えて、そのためにかかるコストも膨大だと思います。
早急に、全国的にこの仕組みが整って欲しいものです。
札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎法律事務所ホームページ