以下は、朝日新聞デジタル(2012年2月27日)からの引用です。
「東京周辺で覚醒剤を使ったとして、覚醒剤取締法違反(使用)の罪に問われた男性被告(42)に対し、東京地裁(伊藤雅人裁判長)は27日、「捜査の手続きが違法だった」として無罪(求刑・懲役2年6カ月)とする判決を言い渡した。
男性は昨年5月、覚醒剤を使ったとして起訴された。
男性は、警視庁新宿署の署員に職務質問されて交番に連れて行かれた後、令状がないまま靴やズボンを脱がされ、身体検査をされた。
この後、採尿された結果が起訴の根拠となった。
伊藤裁判長は、この身体検査について「(強制的な捜索や差し押さえは令状が必要だとする)令状主義に反しており、違法だ」と指摘。
公判で、検査の違法性を否定した警察官の証言は「信用できない」としたうえで、「採尿結果の鑑定書は証拠にできず、男性は無罪だ」と結論づけた。」
尿から覚せい剤が検出され、実際に覚せい剤を使用したことが明らかなのに、なぜ無罪なのかと思うかも知れませんが、「結果良ければ全て良しとばかり」に、無茶苦茶な捜査が行われては困るので、憲法33〜35条及びこれを受けた刑事訴訟法は、逮捕・勾留・捜索・押収等の強制捜査は令状によらなければならないものと定めており(令状主義)、判例上、この令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合には、証拠能力は否定されるものとされています(違法収集証拠排除法則)。
最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決↓が、 論理としての違法収集証拠排除法則を初めて採用した最高裁判決と言われています。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=51125&hanreiKbn=02
最高裁平成15年2月14日第二小法廷判決↓が、 実際に違法収集証拠排除法則を適用した初めての最高裁判決と言われていますが、結論的には、その後の令状に基づく捜索・差押によって発見された覚せい剤の証拠能力を認め、有罪としています。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=50028&hanreiKbn=02
法律家ではなくても、令状主義というのは何となく知っていると思いますが(テレビドラマで悪役が「令状持って来い!」とか叫んでいるあれです)、弁護士であれば、「警察官は令状主義を知っているのか?」と思う場面に出くわした経験がある人が殆どではないでしょうか。
例えば、令状のない警察の任意の事情聴取に応じる義務はありませんが、任意とは言っても、一度警察署に行けば、何だかんだと理由を付けて帰宅を許さず、周りを囲まれ、強引に振り切って帰ろうとしたら、公務執行妨害で逮捕!というのはテレビドラマだけの話ではありません。
札幌弁護士会所属弁護士森越壮史郎法律事務所ホームページ