以下は、弁護士ドットコムニュース(2025年03月05日)からの引用です。
「成年後見人として預かっていた依頼人の金など合計1億3000万円余りを横領したとして、業務上横領の罪に問われていた広島弁護士会所属の弁護士、齋村美由紀被告人(49)に対する判決が4日、広島地裁であった。
石井寛裁判長は、〈結果は重大で、社会的に厳しい非難がされるべき犯行である〉として、懲役4年6月(求刑は懲役5年)を言い渡した(〈〉内は判決要旨から引用。以下同じ)。
齋村被告人は裁判前、横領した金を自動車の購入やエステの代金にあてていたことが報道され、ネット上で批判されてきた。
裁判では、被害者らとは別の1人の依頼者に求められるがまま自費で多額の立替払いをしていたことなど、報道の印象と異なる事件の実相が示された。
審理では、弁護側はこうした背景を踏まえ、齋村被告人の情状に有利な事情を列挙し、執行猶予付きの判決を求めていたが、判決では、その主張が退けられた形だ。(ノンフィクションライター・片岡健)
●弁護側は「私的欲望を満たすための犯行ではなかった」と主張
判決では、齋村被告人の犯罪事実は、
【第1】依頼人X氏への立替払いとして、成年後見人として預かっていた依頼人A氏の預金から合計5000万円をX氏の口座に送金し、
【第2の1】同様の目的で、依頼人B氏から預かっていた相続財産の金からも合計6200万円をX氏の口座に送金し、
【第2の2】自動車購入代金などとして使うため、B氏の金をさらに合計1860万円3120円着服した
−−などと認定された。
齋村被告人もこれらの事実は認めており、この裁判の争点は「量刑」と「執行猶予が付くか否か」だった。
こうした争点をめぐり、齋村被告人が横領した金のうち、大部分をX氏に立替払いしていた事情が審理の俎上に載せられた。
齋村被告人が被告人質問で証言したところでは、2018年、父を亡くしたX氏から相続手続きなどを受任し、その後にX氏の祖母も亡くなったため、その代襲相続の手続きも追加で受任した。
最初に問題になったのは、X氏の祖母が契約していた保険の死亡給付金の支払い請求手続きが順調に進まなかったことだったという。
齋村被告人は、X氏から「保険はいつ出るのか」と急かされ、合計2600万円を別の依頼人や自分の金で立替払いした。それ以降もX氏に求められるまま、X氏が相続で得られるだろう金を次々に立替払いし、その総額は1億5500万円に及んだ。
そのために被害者のA氏やB氏から金を横領し、自分の金も使ったとのことだった。
弁護側はこうした経緯を踏まえ、「私的欲望を満たすための犯行ではなかった」と主張していたが、判決は以下のように厳しく判示した。
〈被告人は、別件民事事件(引用者注・X氏の事件)について見るべき業務を行わないまま放置しておきながら、それを依頼者から追及されると、その場をしのごうと考え、順調に進捗していると虚偽の報告をした。そのために、依頼者から立替払いを求められると、これに応じて自費で立替払いを行う中で、多額の立替に迫られ、一時流用のため第1の犯行に及んだ〉
齋村被告人の証言によると、上記の死亡給付金の支払い請求手続きが順調に進まなかったのは、受取人であるX氏の祖母が保険を(本名ではなく)通称で契約していたため、受取人とX氏の祖母の同一性の証明に手間取ったためだったという。
それが、「見るべき業務を行わないまま放置」していたように認定されたのだ。
ただ、齋村被告人はX氏に対し、実際は順調ではなかった死亡給付金の支払い請求手続きについて、「順調に進捗している」と説明していたことは事実だと認めている。
判決には、裁判官がこの事実に悪印象を抱いたことが示されている。
●「業務怠慢を糊塗するために依頼者の財産を侵害し続けた」
齋村被告人はX氏への立替払いとして、成年後見人として管理していたA氏の預金から5000万円をX氏の口座に送金する第1の犯行を行った後、広島家裁に審問を受け、弁護士会からも預り金の管理が会規に反するとして懲戒に関する調査を開始するとの通知を受けていた。
それにもかかわらず、第2の犯行を行ったことについても、判決は次のように批判した。
〈補填できる見込みもないのに、その場しのぎの立替払いを続けて第2の1の犯行に及んだ上、預り金を被告人個人名義口座で管理すると、あたかも自己のお金と同じように、生活費や経費等に私的利用する第2の2の犯行に及んだ〉
判決はこのような事実を指摘したうえで、〈第1及び第2の1の犯行は、自ら利得する目的ではなく、第1については、一時流用した約半年後に全額が補填されている〉としながらも、以下のように改めて齋村被告人のことを批判した。
〈前記のような経緯等からすると、被告人は、自身の業務怠慢を糊塗するために依頼者の財産を侵害し続けたのであるから、その意思決定は厳しく非難されるべきであり、本件は刑の執行を猶予するのが相当な事案であるとはいえない〉
齋村被告人は被告人質問の際、第1の犯行について、「祖母の遺産のうち、不動産を相続した他の相続人から、X氏は5000万円の代償金を受け取れることになった。相手方はその代償金について、不動産を担保に銀行から融資を受けたら支払ってくれることになっていた」と説明したうえ、X氏から急かされて立替払いしたと述べていた。
それも判決では、「自身の業務怠慢を糊塗するため」の横領だと判断されたのだ。
●判決は情状に有利な事実を列挙していたが…
審理では、弁護側から齋村被告人の情状に有利な事情が色々と示され、それは判決でも以下のように列挙されている。
〈第2の被害者(引用者注・B氏のこと)との間で、横領金及び謝罪金として合計約8800万円の支払義務があることを認めて、これを支払う合意をし、2000万円が支払われたこと〉
〈別件民事事件(引用者注・X氏の事件のこと。以下同じ)を引き継いだ弁護士が業務を遂行したことにより約3000万円(引用者注・上記の死亡給付金のこと)を回収できる目途が立ち、これを被害弁償に充当できる見込みがあること〉
〈別件民事事件に関する不動産を売却できた場合には、残額(引用者注・現時点で被害者に弁済できていない金のこと。金額は7680万円)を完済できる見通しはあること〉
〈同被害者(引用者注・B氏のこと)が謝罪金等の支払を慮って嘆願書を提出していること〉
〈第1の被害者(引用者注・A氏のこと)の親族に対して謝罪金として50万円を支払い、同人が宥恕の意思を示していること〉
〈被告人が罪を認めていること〉
〈当然のことではあるが、今後、弁護士資格喪失という社会的制裁を受けることが確実であること〉
――このように判決は齋村被告人の情状に有利な事情が多数あることを認めている。
しかし、〈(引用者注・これらの事情を)刑期の面で考慮して、主文の刑を量定した〉と述べており、これらの有利な事情を考慮しても量刑は懲役4年6月が相当だというのが裁判所の判断だということだ。
石井裁判長が判決を朗読している間、齋村被告人は証言台の椅子に座り、少し体を揺らしながらそれを聞いていた。
閉廷時には、裁判官たちにお辞儀しており、閉廷後の様子は落ち着いているように見えた。」
この事件の詳報ですね↓
使途が何であろうと、どんな有利な事情があろうと、1億3000万円余りの業務上横領で、執行猶予が付くことはあり得ないのではないでしょうか。